これまでモンテッソーリ教育の「敏感期」の運動、秩序、感覚、言語、書く、読む、数、とご紹介してきましたが、今回は最後の「文化の敏感期」についてです。
「敏感期」というのは子どもが何かに強くこだわりや興味を持つ一定の時期のことを意味します。それを知ることで、「なぜこんな行動をするのだろう?」と思わせられるような、子どもの不思議な行動も腑に落ちたり、子どもが大きく成長する大切な時期を逃さない手助けにもなったりするかと思います。
文化の敏感期
「文化の敏感期」はちょうど年中さんの学年、4歳半以降に始まります。子ども達の世界がぐっと広がり、自分の周りの世界や世の中の仕組みに興味を持つようになります。ちょうどクラスに昆虫博士、宇宙博士、恐竜博士などが現れる頃でもあります。私のクラスにもこれまで数多くの博士が出現しましたが、ハワイで教えていた頃、植物が大好きな男の子がいて、植物園での遠足でクラスのみんなにさまざまな植物の特徴についてツアーガイド顔負けの説明をしてくれたことを思い出します。
文化の敏感期は、言語の敏感期と重なることで、大人でも難しいと感じるような言葉もスラスラと覚えてしまいます。ちなみに、子ども達は、大人が子どもには難しいかなと思うような言葉が大好きです。長い言葉でも「平行四辺形」「トライセラトプス」「ヘラクレスオオカブト」など、興味のある言葉をすぐに覚えてしまいます。
文化の敏感期というと分野が広く、恐竜や昆虫などの生き物だけでなく、科学、楽器、踊り、歌、サッカーなどの運動、などに興味を強く抱くこともあります。大切なのは、子どもをよく観察しながら、「今この子は何に興味があるのかな」と目と耳を集中させることにあるかと思います。前は「何これ?」を連発して聞いていた質問が、「なんで?」「どうして?」という質問に変わってきたら、「お!もしかしたら文化の敏感期かな。好奇心に幅が出てきたのかもしれないな」と、子どもと向き合う機会にしてみて下さい。
ここで気をつけたいのは、子どもが質問してきても、その答えを大人が知っていなくても良いということです。もしお子さんが「どうして恐竜は死んでしまったんだろう?」と聞いてきても、「それは隕石が落ちて地球が塵に包まれたからだよ」と答える必要はありません。人間には「知りたい」と、物事の本質を探究する気持ち、すなわち探究心が備わっています。
この探究心は、生涯にわたって大切にしたい学びへの欲求、学びの喜びの素でもあります。子どもと寄り添いながら、「どうしてだろうね。一緒に図鑑を見て調べてみようか」と、学びのプロセスを大切にしてあげて下さい。また、子どもが知りたい時に自分一人でも調べられる図鑑のようなものを用意しておいてあげることも、とても有益だと思います。
小学校でのコスミック教育
文化の敏感期は、5歳のキンダーから小学生の年齢へとどんどん広がりをみせていきます。モンテッソーリの発達の4段階の2段階目である「児童期」にあたるモンテッソーリの小学校では、「コスミック教育」に重点が置かれます。コスミックという言葉自体は宇宙という意味ですが、モンテッソーリのコスミック教育は宇宙の勉強をするという小さな意味ではなく、宇宙全体の中で人間が世界とどのように関係を持っているか、宇宙の中の地球人としての教育という大きな意味を示しています。
モンテッソーリの小学校は "The Great Lessons" と呼ばれる宇宙誕生の壮大なストーリーから始まります。モンテッソーリは「児童期は子ども達の想像力が飛躍的に広がる時期であり、子ども達は地球の誕生や哺乳類の発達など、想像をかき立てられながら楽しく学ぶことができる」と言っていました。そして、子ども達の「どうしてこうなるの?」という知的好奇心が爆発的に広がる大切な敏感期に、社会での実体験を大切にし、専門家へのインタビューや実施体験など、クラス外での学びの機会が多く与えられます。
また、こうしたレッスンは子ども達の責任感を育みます。想像力が広がることで、自分たちの行動が社会や環境へと影響することを想像できるようになるからです。地球を守っていくためにできること、生態系のバランスや環境や文化への感謝の念などが培われていきます。
有名人にもモンテッソーリ教育を受けた人がいることから、英才教育と勘違いされることがありますが、モンテッソーリが重点を置いたのは "Whole Child" の教育(子どもを全体として捉えて育てる教育)でした。
モンテッソーリ教育は、敏感期にも重なる、運動能力、感覚能力、言語、数、文化全てを含んでの学びの環境に子ども達が包まれ、その中で学んでいくことで、自分らしく、自立して責任感があり社会と調和して宇宙へ貢献できる大人へと育っていくことを目指しています。
モンテッソーリは、自分と周囲の世界との関係に興味を持ち、調和を求め、尊敬の心を抱いていくことで、子ども達がやがて平和な世界を創っていくと信じ、生涯に渡り平和教育の大切さを訴えていました。コスミック教育というと壮大ですが、目の前の子どもの抱く好奇心が、やがて地球を愛し平和を愛する大人への第一歩と考えると、普段の小さな質問も愛しく思えて、少し手を休めて、向かい合っていきたいと思えますね。
掲載:2021年7月
文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。
Pikake School
www.pikakeschool.com