サイトアイコン junglecity.com

2023年、アメリカの人事戦略:昇給率予測と給与透明性への取り組み

2023年の昇給率予測について、例年同様、さまざまな調査会社が2022年4月から7月にかけて聞き取り調査を実施し、夏ごろにその結果を発表しました。

2023年昇給率予測

それによると、2023年の昇給率の中間値は概ね3.8%から4.0%となっています。調査会社によって異なりますが、4.0%に達したのは10~20年ぶりのことでした。

2021年の後半から急激にインフレが起こり、2022年の昇給率実績は4.0%程度となりました。しかしながら、WTW の調査結果では 、2023年も引き続き人材不足が起こると考えいてる企業は40%にとどまっており、沈静化するのではないかと考える企業が多くありました。

このような激変する経済や労働市場における新たな傾向は、今まで通り年初に次年度の昇給予算を決定するのではなく、仮予算として設定し、秋口に状況を見て修正をかけるとする企業が増えたことです。

Fortune 500 などの大企業を中心に調査を実施した Empsight 社によると、2023年の昇給率の中間値は3.5%でした。しかし、実際には下記の図のように昇給率にはかなりばらつきがあることが分かります。

また、同じく大企業を中心に調査した Conference Board の「2022–2023 米国昇給予算調査」では4.3%でした。今年は調査会社によってかなり差がある結果となっており、いわゆる平均という値は意味をなさなくなった可能性が高いです。

給与の透明性

2021年1月1日にコロラド州の Colorado’s Equal Pay for Equal Work Act が制定されたことを皮切りに、給与の透明性を確保するための州法が次々に制定されています。

基本的には、白人男性の給与よりも、女性やマイノリティの給与が低い状態を是正することが目的です。

給与の透明性を確保するための州法に共通している点は、求人の際に給与や給与レンジを公表すること、候補者の給与履歴を尋ねることや、それを参考に給与を決定することの禁止、既存従業員から自身のポジションの給与幅を聞かれた場合は回答することなどです。

労働組合の協約で労働者の賃金を明確に定めている企業は、これらを直ちに実施することに特には問題がないと思われます。しかし、一般の企業において、同じ職種で勤務する全従業員が全く同じパフォーマンスであることはあり得ません。政府が提唱する同一賃金同一労働は、雇用主から見ても従業員から見てもむしろ不公平なのです。

ジョイス・コックス氏は BBC に寄稿した「米国の給与透明性への動き」の中で述べていますが、現在の「女性は男性の86%の賃金しか得られていない」というデータは、必ずしも雇用主が男性を優遇した結果ではありません。これにはさまざまな要因があります。例えば、女性は妊娠や出産によってキャリアが中断される事実や、女性が比較的賃金が高くない業界やポジションを好んで就職していることなどが挙げられます。これ以外にも教育や貧困の問題もあると言われています。上記の2023年昇給率予測でも述べましたが、データはあくまで一つの事実を語っているだけで、企業はその背景を考察して対応することが重要です。

しかしながら、法律が制定された以上、雇用主はこれを遵守する必要があります。ただ、何の準備もなく法律順守だけ実施すると、多数の従業員から「自分の賃金は、他の従業員と比較して不当に低い」「給与を上げてほしい」「退職したい」といったネガティブな反応が返ってくることが考えられます。

これを阻止し、従業員の定着を図り、公平性を維持しつつ訴訟や罰金を回避するために雇用主は何をすることができるのでしょうか?

求人広告の給与公開

昨今の売り手市場により、求職者側には選択肢が多くあります。また、オンラインの求人広告が多く、興味があれば簡単に応募することができます。つまり、求人に対して軽い気持ちで応募する人の増加につながっています。

候補者が選考の途中で消えてしまう「ゴースト化」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。

しかし、求人広告に給与の金額やレンジを公開することで、ある程度「あまり興味がない」候補者からの応募を阻止し、雇用主は時間を無駄にすることがなくなります。

自分だけは特別だと考えて、内定が出た後に給与交渉をする候補者は一定数いますが、応募時の給与金額からかけ離れた額を要求する人はいなくなるでしょう。ただし、募集する職種や類似の職種で勤務する他の従業員が、求人する職種の給与を知ることを踏まえ、給与の社内公平性を維持することには充分な配慮が必要です。

候補者に給与情報を尋ねない

自社に確立した給与制度がない場合、候補者の現在の給与金額を尋ね、その金額を参考にしてオファーする給与を設定する企業もあります。もし、意図する金額より安ければ、雇用主としては良い人材を安い給与で雇えることになります。

しかし、現在の情報社会、他の従業員からの情報やネットにあふれる給与情報を目にすれば、早晩自分の給与が相場より安いことに気づきます。入社後、トレーニングに時間を費やし、さて戦力になってもらおうと思った矢先に転職と言った最悪のシナリオもあり得ます。

従業員から給与レンジを質問されたら回答する

企業にとってはこれが一番頭の痛い規則と思われます。

質問してきた従業員が給与レンジの低い位置にいる場合、今後給与
が上がる可能性を示せますが、どうすれば昇給するかと質問された場合、すぐに答えられる上司はあまりいないでしょう。

また、給与レンジの高い位置にいる従業員の場合、これ以上の昇給が望めないと理解され、転職活動を始める可能性があります。

しかし、これは逆に評価が高いという意味でもあり、データの説明方法によっては本人のやる気を引き出すこともできます。

年末に向けて人事考課を実施する企業が多いですが、部下を評価するマネジャーなどに適切なトレーニングを行う必要があります。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
【公式サイト】 creo-usa.com
【メール】 info@creo-usa.com

モバイルバージョンを終了