早くも2022年の第1四半期が終わり、コロナへの関心も次第に低下している中、人事関連の話題は尽きることがありません。そこで今回は、雇用主が知っておきたい人事関連のホットトピックスを4つ取り上げます。
マリファナ問題
未だに連邦法では違法であるマリファナですが、これに反して多くの州では、医療用としての使用だけでなく、娯楽用としても合法とみなす動きが出ています。
Drug Screening(薬物テスト)大手の Quest Diagnostics 社の調査によれば、マリファナの陽性結果が出た従業員の比率は2020年の3.6%、2021年の3.9%に対し、最新データでは8.3%と大幅に増加しています。
しかし、そのトレンドと逆行するように、雇用前調査の薬物テストを実施しない企業が増加する傾向にあります。
入社前にマリファナの陽性反応が出た候補者が、入社後の業務遂行に支障をきたすとは限らないという表向きの理由はありますが、実際にはここで歩留まりを落としては、採用戦略が成り立たないという一部企業の切実な事情もあります。
これまで、雇用前に薬物テストを実施するか否か、陽性反応が出た場合の対応方法は企業に委ねられてきました。しかし、ニューヨーク、ニュージャージーやネバダのように、雇用前の薬物テスト実施が合法でも、陽性結果を理由に不採用とすることを違法とする州も出てきています(就業中の使用や影響下にある場合の懲戒は可能)。
また、ニューヨーク市やフィラデルフィア市では、雇用前のマリファナ検査実施自体が禁止されています。
このような動きが今後全米に広がるかは不明ですが、全米がマリファナに対して寛容になっていることは間違いありません。選考課程においても、雇用前の薬物テストについて再検討の必要があり、調査会社によってはパッケージの違法薬物調査メニュー(5パネル/違法薬物5種のセット)から、あらかじめマリファナだけを除外することも可能です。
一方で、重要なことは、雇用前のマリファナの薬物テスト免除は、社内での使用や影響下での就業を雇用主が認めるという意味ではありません。
就業中、明らかに挙動がおかしい従業員に、薬物検査を指示するルールや手順、拒否した場合の対応などは、あらかじめ雇用ハンドブックに記載して、周知徹底する必要があります。
Exempt の最低賃金変更の可能性と Target 訴訟
Exempt と Non-Exempt の従業員カテゴリ問題は、以前から雇用主を悩ませています。
残業代の支払いや時間管理の煩わしさもあり、可能であれば Exempt とみなしたいと思う方もいるようですが、誤った解釈によって労働局の指摘を受ければ、過去2年間に遡って残業代の支払いを求められる場合もあり、区分には細心の注意が必要です。
2016年の民主党政権でこの Exempt の規制を強化すべく、オバマ元大統領が Exempt の最低賃金を週給913ドル(年収換算で約47,400ドル)に大幅上昇させようとしましたが、施行の10日前に違憲と判断され無効となったことは記憶に新しいです。
その後のトランプ政権でこの金額は週給684ドル(年収換算で約35,500ドル)に下方修正され現在に至っていますが、これをバイデン政権が少なくともオバマ元大統領が実現しようとしたのと同じ週給913ドルかそれ以上に上昇させる方針を打ち出しています。
なお、カリフォルニア州法では既に2022年は従業員数25名以下の企業では年収58,240ドル、26名以上の企業で62,400ドルが Exempt の最低賃金に設定されており、ニューヨーク市では週給1,125ドル、年収58,500ドルが Exemptの最低賃金と設定されています。
※Exemption 区分には最低給与以外にも多様な判断要素があります。
このように、何かと話題となることが多い Exemption 問題ですが、今後の行方が注目されているのが、アメリカの大手量販店 Target 社の残業代訴訟です(Babbitt v. Target Corp., D. Minn., Civil No. 20-490)。年収74,000ドルで Exempt として採用された Executive Team Leader が、人員不足から管理職としての職務を1~2割程度しか遂行できず、勤務時間の多くを商品陳列、トラックからの積み下ろし、店舗清掃、顧客対応などに費やしたことで、Exempt に該当せず残業代を支払うべきと訴えたケースです。
人事分野に明るい方であれば、2名以上の部下(この社員の部下は75名)がいて採用・解雇や経営判断に関わる管理職であれば当然 Exempt と考えると思いますが、この訴訟で裁判所は Summary Judgement(略式判決)を出さず、正規の事実審理に進めると判断しました。
現在のような人手不足の中で、マネジャーなどの管理職が不足する労働力をカバーすべく、本来 Non-Exempt 従業員の職務を遂行することは多くの企業で行われていると思います。
しかし、それが常態化して「名ばかり Exempt」となり、本来の Exempt の職務比率が下がれば、Target と同様のケースが起こる可能性が出てくるでしょう。特に、日本では管理職が一般職職務も兼務するプレイングマネジャーというスタイルが一般化しており、これらの職務スタイルに違和感を持たない経営者も多いため、今まで以上に注意が必要となります。また、今後 Target のケースで雇用主側に不利な判決が出た場合、多くの雇用主にも影響する可能性があります。
採用難による賃金の高騰
2022年に入っても引き続き人手不足と賃金の高騰は続いています。米国労働統計局(BLS)が発表した全米の失業率は2022年3月時点で3.6%となっており、これは就労意欲のある人材がほぼ全員雇用されていることを意味しています。
このため、人材を採用する雇用主は、必然的に既に勤務している人材を採用する必要があり、多くの企業から好条件で他社に雇用される人材が極めて高い離職率を形成する要因となっています。
なお、上述の BLS が2022年3月9日に発表した2022年1月の1カ月間の離職率は4.1%で、そのうち自主退職は3.9%となっています。
また、上述の通り、他社の現職者を雇用するために、企業がより良い条件を提示することが、さらなる賃金高騰を招いていることは明白です。
BLS の統計によると、2022年3月の平均週給は前年3月比で5.6%上昇しています。昨年半ばより弊社でも何度か昇給率予測をトピックとして取り上げましたが、結果的に昨年末に急遽実施された昇給予測の3.9%をはるかに上回りました。
一方、BLS は、同時期に2月の全米消費者物価指数が7.9%に上昇したことも発表しており、インフレ状況もまた非常に深刻です。
各州での新しい雇用関連法
昨年はさまざまな州で新たな法律が策定され、今年初めから有効となっているものが多い。他州の法律であってもそこからトレンドとなることもあり、頭の片隅に入れて雇用ハンドブックの更新等の参考にしていただきたい。特に髪型による差別の禁止(CROWN Act)は既に多くの州で導入され、下院でも可決されているため今後の動向が注目されます。
【オレゴン州】
- 競業避止契約/Non-Compete Agreementを締結する場合、年収$100,533以上であることが条件であり、避止期間が12か月以上は無効(2022年1月1日より)
- 運転免許証の保持を雇用条件としてはならない。ただし主業務が運転である場合を除く(2022年1月1日より)
- 髪型による差別の禁止(2022年1月1日より)
【ワシントンDC】
- 競業避止契約の締結禁止、副業を禁ずることの禁止(2022年4月1日より)
【ニューヨーク州】
- 雇用主が従業員のメール、電話、インターネット使用をモニタリングする場合、事前の書面通達が必要であり、従業員が通達を受領した確認が必要(2022年5月1日より)
【ニューヨーク市】
- 求人広告を掲載する際に給与金額を提示しなくてはならない(2022年5月15日より)
【ロードアイランド州】
- 介護有給休暇の最大取得可能日数が5週間に延長、さらに翌年からは6週間に(2022年1月1日より)
出展: SHRM、BLS、各州発表情報
総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん
2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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