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採用難を乗り切るために雇用主が確認すべきポイント

超売り手市場の要因は何か?

多くの雇用主は失業保険の追加給付政策が労働力現象の要因と考えていますが、これは部分的には正解です。

特に、賃金の安い従業員は労働する以上の収入が失業保険で得られる状況になりました。また、失業している間も生活に十分な収入を確保できたことから、これを機にキャリアチェンジやキャリアアップのための勉強や、今まで時間的制約のために実現しなかった願望を行動に移す人も増えたようです。

しかし、一方で、追加給付が終了したにもかかわらず、なぜいまだに人手不足が続くのかと疑問を持つ方は非常に多いです。

もう一つの大きな要因は、パンデミックによって一斉にダウンサイズを実施した企業が、感染状況と経済状況の改善とともに再び一斉に採用に転じたことにあります。多くの求人が同時に発生し、求職者は仕事を選べる状態になりました。このため、簡単に差別化を図れる賃金アップが発生し、それがエスカレートして現在に至っていると思われます。

そうなると、現在雇用されている従業員も大幅な賃金アップが見込まれるならと転職を考えるようになり、その従業員が退職したポジションの求人がまた発生します。

こうして現在の雇用主にとって極めて困難な市場の状況が作り出されてきた可能性が高いです。現在の労働市場が落ち着くにはまだ時間がかかると思われますが、仮に一旦落ち着いたとしても、一度上昇した賃金水準は簡単には元には戻らないでしょう。

売り手市場下での採用戦略の見直し

採用にあたって、過去に会社を去った従業員の退職理由に目を向けることは非常に重要です。下記は SNS で多く見られた、入社数週間以内の短期間で退職した人たちの理由の一部ですが、御社にも思い当たる点はないでしょうか?

退職理由を的確に把握し、長期的にデータ化することは、採用戦略の中でも重要な意味を持っています。そのためには、適切な Exit Interview(退職時面接)を実施し、退職者の本音を聞き出して、退職理由となった真の原因を見つけ、それらを改善していくことが必要です。

なかなか本音が聞きだせない場合は、インタビューの質問内容や面接方法、面接担当者の変更などを検討した方が良いでしょう。ここで必要なのは、あくまでも本当の退職理由だからです。

トレーニングに関しては、人員不足により時間が取りづらいという事情がある上に、担当する社員も「せっかくトレーニングしても、すぐに退職するのでは?」と疑心暗鬼になるという風潮もあります。このような場合、1人の従業員に負担をかけず、人事も関与して複数の社員が交代で担当するなど、初期トレーニング計画の見直しも必要です。

また、新入社員が「考えていた職務内容と違う」と感じないようにするには、面接時で正確な職務内容や職場環境を説明することはもちろん、雇用主側も採用した場合、どの程度のトレーニングが必要になるか、候補者が持つスキル・知識・経験とポジションに必要とされるそれらとのギャップを見極めておくことも重要です。妥協して採用した結果、トレーニングに時間がかかり過ぎ、教える側が疲弊した上に、採用自体の目的が達せないのでは本末転倒になります。募集要項の設定には人事だけでなく、関係する社員の共通認識も必要です。

給与相場の上昇により、社内全体の給与制度の見直しが必要になったという話もよく耳にします。同業者を含むローカルの賃金データの変化に敏感であることはもちろんですが、現職者との給与バランスにも注意が必要です。現職者より高い給与で、同じポジションを採用することは稀ですが、今働いている従業員が「何年もかけて昇給した金額が、新たに入社した社員と大差ない」と不満に思うケースは非常に多いです。このような場合、勤務歴の長い社員に一定条件で有給休暇を追加付与する、ボーナスで処遇するなど、基本給と関連しない方法で対応するのも一案です。

給与や福利厚生などコストが関連する待遇改善以外には、出社とリモートを組み合わせたハイブリットスタイル、または基本的にリモート勤務で月に何回か出社義務を課すといった勤務形態、以前から製造業などで行われている週休3日制の実施も従業員の採用・定着に一定の効果があります。

リモート勤務は、Non-Exempt ポジションでは時間管理が難しいですが、Exempt であれば業務遂行の随時把握や評価方法の確立で、管理さえできれば双方にメリットのある制度となります。ちなみに、magnify money 社が今年7月に実施した「退職を考えている従業員の理由」に関する調査結果によれば、「リモートワークの実施」が「低賃金への不満」と同率で1位となっておりその数字は42%にのぼります(調査対象233名/複数回答)。

意外と見落とされがちですが、内定受諾後から採用までの雇用主の対応も重要です。出勤日までのフォローアップやオリエンテーションは会社の第一印象を大きく左右するので、Offer Letter にサインしたことで安心せず、できる限り入社を歓迎している意図が伝わるような工夫をして欲しいと思います。人事や配属予定部署のマネジャーからの定期連絡(オファーから入社迄の期間が長い場合)、自社商品やサービス、業界に関連する資料や社内報などの提供は、入社前のモチベーション向上に効果的です。

既存従業員の定着対策を怠らない

採用だけではなく、現従業員への配慮は、超売り手市場の現在では以前にも増して重要度が高まっています。

多少なりとも仕事や待遇に不満を持つ従業員であれば、真剣に転職を考えなくとも、どのような求人があるのかは気になります。軽い気持ちで応募した企業から予想以上の好待遇と高評価を受ければ、軽い気持ちが大きな決断に傾かないとも限りません。

どの企業でも不満を声に出すのはたいてい同じ従業員で、おそらく不満を口にしない従業員の方が多いはずです。しかし、不満を訴える従業員を面倒な従業員と考えずに、そこに改善のヒントが隠されていると思って真摯に耳を傾け、可能なことはなるべく迅速に対応することが必要です。対応が難しい苦情であっても、話を聞いて会社の考え方を説明するだけで、本人の不満が和らぐ可能性は十分にあります。

また、以前も取り上げましたが、前述の Exit Interview では対応が後手に回るため、現在は Stay Interview と呼ばれる、現従業員に「なぜこの会社で勤務し続けるのか」を尋ねるスタイルが増えつつあります。

無記名アンケートでもよいですが、個別に時間を取ってカジュアルなスタイルで上司が話を聴く方がより効果が高いです。

会社のどこに魅力を感じて働いているかは人それぞれであり、勤務する企業によっても異なるため、「こうすれば安心」といったオールマイティな正解はなく、理解にもある程度時間がかかります。

しかし、その分従業員の退職サインを事前に察知できる可能性があり、また自社に合ったソリューションを見つけられることは大きなアドバンテージになります。

アメリカでは雇用主の対応が後手に回ることで、結果的に従業員の主張を受け入れざるを得なくなる状況がしばしば起きます。しかし、主張を受け入れると、差別的扱いを回避するために他の従業員からの要求も受け入れざるを得なくなります。先んじて対応をすることは、雇用主にとって非常に重要です。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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