職場での雑談には従業員同士のコミュニケーションを円滑にする効果があるだけでなく、時として非公式に出来上がった社内ネットワークが仕事に良い影響を与える場合もあります。このことは、パンデミック後リモートワーク中心の仕事環境で実感した方も多いのではないでしょうか。
しかし、度を越した噂話やネガティブな話題は、会社の雰囲気を悪化させ、従業員間のトラブルに発展することもあります。
ゴシップを完全に禁止することはできませんが、雇用主は働きやすい職場を提供するためにある程度コントロールしなくてはなりません。
ゴシップとは
職場での雑談は相手と共有できる話題で、必然的に仕事や会社、従業員の個人的な話題が多くなります。職場や仕事の問題について職場で話すことは、National Labor Relations Act(NLRA: 米国労働関係法)により、従業員の権利として保護されているため、この種の話題やスピーチを安易に制限することはできません。
しかし、これら保護されている話題であっても、他の従業員を不快にさせたり、疎外したり、会社の評判を傷つけたりするような内容は、ゴシップと言えるでしょう。
したがって、雇用主は社内のいじめや嫌がらせと同様に、毅然とした対応を取る必要があります。
「ゴシップはなぜいけないのか?」
The Academy of Management Review の中で、Nancy Kurland 氏と Lisa Hope Pelled 氏は、職場でのゴシップが与える下記のような負の影響を挙げています。
- 社内での信頼や従業員士気の低下
- 生産性低下と労働時間の浪費
- 事実関係の真偽が不確かなまま噂が広まることで従業員の不安が増す
- 意見が二分することによって生まれる従業員間の分裂
- 従業員の感情や会社の評判を傷つける
- 不健全な職場環境が原因で優秀な従業員が退職する
ゴシップを放置してしまうと、このようなさまざまなネガティブな事象が発生し、それがやがて生産性の低下や人材の流出につながってしまいます。
ゴシップの伝達手段
ゴシップの伝達手段は、口頭だけでなく、メールや SNS など、さまざまな方法があります。口頭や社内メールは発見が簡単ですが、個人の SNS などは発見が難しいものです。
どの企業もハラスメントトレーニングなどで触れていると思いますが、たとえ個人の SNS であっても、社内のハラスメントやいじめが認定されれば、就業規則が適用されるので、懲戒対象となることを周知する必要があります。
ゴシップのコントロール
ほとんどの企業は就業規則にゴシップおよび雑談について何らかの規則を記述しているので、まずは自社の就業規則を確認することをお勧めします。
ゴシップには原因となる問題が存在しており、それらを解決することで収拾できる場合もあります。
ただ、生来ゴシップや他人の悪口が好きな人達もいるため、度を超えた行動をする従業員は、社風に反することを理由として解雇することも可能です。
従業員向けにコミュニケーションや職業倫理のトレーニングを実施することも良い方法ですが、手間がかかっても都度注意する方が本人も自覚しやすく、改善の効果は高くなります。
では、具体的にどのような場面でどのような注意を与えればよいのでしょうか。
給与関連の話題
従業員同士が自分の給与を共有し、その情報を元に上司に昇給を要求する。
他の従業員が不当に高給であると苦情を言う。
このような問題は、ブルーカラーが多い職場に限ったことではありません。
ところが、米国では自分の給与情報を共有することを禁止すれば、上述の通り NLRA に違反してしまいます。一方で、他人の給与情報を他の従業員へ話すことは社内のポリシーで禁止されているはずですので、この点を的確に伝えることで給与を話題とするトラブルは減少するはずです。特に、業務上、社内の給与を知る立場にある従業員の職業倫理と機密保持の徹底は重要です。
個人的な話題
従業員が私生活について自ら話すことはあるでしょうし、他人のことが話題となることもあるでしょう。例えば、「職場で不倫している人がいる」「あの従業員の子供は〇〇症候群のようだ」「今度の新入社員は前職をハラスメントで解雇されたらしい」など、会社や職務に関係のない話題がこれに該当します。
ポジティブな話題もあればネガティブな話題もありますが、この手の話を一概に悪いと決めつけることは難しいものです。
例えば、病気の子供がいるという話を聞いて、チームが協力してその従業員の仕事をカバーすることもあるでしょうし、金銭的な困難を抱えているという噂によって、その従業員に限られた残業の機会を譲る人がいるかもしれません。
しかし、実際には、単に面白おかしく話したり、噂に尾ひれがついて一人歩きしたり、他人の誹謗中傷になるようなことは、速やかに中止させるべきです。なぜなら、これらが発端となり、社内のいじめやハラスメントにエスカレートする可能性が高いからです。
安全関連の話
「誰かが社内マリファナを吸っている」「酒の臭いがした」「工場内で耳栓をしていなかった」「会社の機材で私的な作業をしていた」などといった話の場合は、単なる噂話として放置せず、真剣に対応すべき事案です。
しかし、噂話だけを信じて薬物テストを実施すれば、特定の従業員への差別対応とも取られかねません。まずは、人事が主導して速やかに公平な調査を実施し、事実確認の後に適切な対応をすることが重要です。
上司の悪口
これはある程度避けては通れない話題であり、あまり真に受ける必要もありませんが、度を超えている場合はやめさせる必要があります。
例えば、「頑固な人だ」「マイクロマネジメントをする」「指示が適切ではない」などは誰にでも当てはまる可能性があり、特に問題とはならないでしょう。しかし、「部下の売り上げを横取りしている」「経費を不正に使用した」「業者からキックバックを受けている」など、信頼を失墜させるような噂話は直ちにやめさせなくてはなりません。
これは決して上司に不利な話をする従業員の口に蓋をするということではなく、もしそのような事実があるのであれば、噂話をするのではなく、社内ルールに従って適切な手段を取ることをその従業員に伝えるべきです。
会社の話題
ゴシップが会社の方向性に関するものや、人事の決定、レイオフの可能性などに関連する場合、会社から正確な情報を正式に発信することで従業員の不安を払拭できます。間違った情報が不安をあおり、従業員の退職につながる可能性を考えると、情報の透明性は重要です。マネジメントの中には、故意か否かに関わらず、同僚や部下に情報を漏らすこともあり、機密性の高い情報の管理は必須となります。
この他にもさまざまな事例は考えられますが、些細な話題であっても、それを相手がどのように受け取るか、社内で話題にするのに適切か、誰かを傷つけ不快にする可能性がないかなど、従業員一人一人が考える機会を提供することも重要です。
総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん
2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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