昨年から今年にかけて、さまざまな政治的背景を受けて、重要な連邦法や州法の改正が相次ぎました。その影響で、弁護士事務所からのニュースレターが例年以上に多く届いたと感じた方もいるのではないでしょうか。
そこで、今月は、2025年に施行される新しい法律を含む、近年の労務に関連する法律のトレンドをご紹介します。
連邦法には現在のところ新しい法律は見当たらないため、ご紹介するものは州法が中心となりますが、全体のトレンドを理解しておくことで、他州の状況を知り、今後追従する州法の施行を知ることに役立つので、ぜひ参考にしていただければと思います。
また、ご存知の通り、今月20日には新大統領が就任することで、連邦法の更新も予想されるため、引き続き注意が必要です。
連邦法
ホワイトカラー Exemption の最低賃金要件と競争禁止契約
2024年、連邦法で特に注目されたのは、公正労働基準法に基づく「ホワイトカラー Exemption の最低賃金要件(公正労働基準法)」と「競業避止契約(連邦取引委員会)」です。
どちらも棄却されたため、現時点での変更はありませんが、カリフォルニア州をはじめとした下記の州では連邦法より従業員に有利な州法が存在するため、雇用主はこれを順守する必要があります。
Exempt従業員の最低賃金/年収ベース
アラスカ州: $49,545.60(7/1/2025より $54,080)
カリフォルニア州: $68,640
コロラド州: $56,485
メイン州: $43,950
ニューヨーク州: $60,405.80(NY市、Nassau郡、Suffolk郡、Westchester 郡は $64,350)
ワシントン州: 従業員数50名未満 $69,305.60、 従業員数50名以上 $77,968.80
競業避止契約
カリフォルニア州
ミネソタ州
ノースダコタ州
オクラホマ州
州法
最低賃金の引き上げ
全米雇用法プロジェクト National Employment Law Project(NELP)の報告によると、2025年1月1日時点で、21州と48の市または郡が最低賃金を引き上げました。さらに、5州と23の市または郡が、年内に同様の措置を講じる予定です。これら地域の約80%では、最低賃金が1時間あたり$15以上となる見込み。昨今のインフレに伴い、最低賃金の上昇は引き続き企業へ影響を与えることが予想されます。ちなみに、連邦法の最低賃金(州法が上回る金額を持たない場合これが有効)は、2025年1月1日現在、まだ1時間あたり$7.25ですが、この金額が市場においてまったく競争力を持たないことはご存知の通りです。
給与透明性法の施行
雇用主が、求職者、そして場合によって従業員と、職務の報酬に関する情報をオープンに共有することを義務付ける法律です。求人広告または採用プロセスなどにおいて、特定の職種の給与範囲を開示することが必要となります。
2024年時点で給与の透明性を義務付けていたのは9州のみでしたが、今年は、イリノイ州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ニュージャージー州、バーモント州で同様の法律が施行されます。さらに、ケンタッキー州、ミシガン州、ウェストバージニア州など10州が、同様の法律を検討しています。
給与透明性法はそれぞれの州で微妙に異なる上、ニューヨーク市(NY)、トレド市(OH)、ワシントンDCなどの自治体でも独自の法律が存在するため、複数の州に拠点を置く企業は詳細を確認しておくことが重要です。
また、給与規定を持たない企業は、給与差によって雇用差別などを疑われないためにも、公正な給与制度を構築することをお勧めします。
保護クラス(Protected Class)の拡大
各州において差別から保護されるべき対象が、年々、拡大傾向にあります。イリノイ州では今年から保護クラスとしてあらたに「家族責任」を追加し、従業員が家族に「個人的なケア」を提供する「実際のまたは認識された」責任を理由に、雇用者が雇用や昇進を拒否したり、解雇することが違法となりました。また、「生殖保健に関する決定」を理由に差別することも禁止となり、避妊、不妊治療、不妊手術、生殖補助技術、流産のケア、妊娠の継続または中絶に関連するヘルスケア、または出生前、出産、出産後ケアの使用に関する個人の決定が対象となります。
カリフォルニア州ではすでに保護クラスであった「人種」の定義に、髪質や保護的なヘアスタイルが含まれるように拡大されました。
マリファナの使用規制緩和
麻薬取締局(DEA)は、マリファナ(大麻)を規制物質法のスケジュール I からスケジュール III に再分類するというバイデン大統領の指示に応じました。
年内に公聴会が開かれますが、確定すれば、マリファナは依存の可能性が中程度から低い薬物に分類され、州を問わず医療用として使用可能となります。連邦法では引き続き娯楽使用は合法化されませんが、マリファナの利用に関して規制緩和の傾向はこれからも続く可能性が高いと思われます。
現在、24州でマリファナの娯楽使用が認められてはいますが、昨年は、フロリダ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州でマリファナ合法化法案が棄却されています。
一方、2025年は新たにケンタッキー州で医療目的でのマリファナの使用が合法化されました。患者は州認可の医療用マリファナ使用患者 ID が発行されます。
なお、雇用主が職場においてマリファナの所持や使用を禁止することは引き続き可能です。
有給傷病休暇の拡大
有給休暇は多くの企業が人材の採用や維持のために自主的に付与している福利厚生で、連邦法では有給祝日、有給休暇、有給傷病休暇などの付与を雇用主に義務付けていません。ところが、これらを州法によって義務付ける州が近年拡大しつつあります。
2025年から始まる4州(アラスカ、コネチカット、ミズーリ、ネブラスカ)も含めると、21州で有給傷病休暇(Paid Sick Leave)の付与義務があります。また、地方自治体が独自の法律を持っている場合もあります。
有給傷病休暇に関する多くの法律は、家庭内暴力、性的暴行、またはストーカー行為の被害を受けた従業員に有給傷病休暇の利用を許可しています。これらの法律では、従業員は医療のためだけでなく、裁判への出席、転居、カウンセリング予約の他、被害者支援団体からサービスを受けるために休暇を取ることが許可される場合もあり、雇用主は各州や自治体の法律をよく調べておく必要があります。
なお、ワシントン州では、今年から有給傷病休暇の対象となる家族の定義をさらに拡大し、従業員の家に定期的に居住している人、または介護を期待される関係にある人が追加されました。このように、今後は有給傷病休暇の対象も拡大していくと思われます。
法律改訂への対応
このような各州法の変更によって、今年は例年にも増して就業規則の更新や管理職への周知が重要性を増してくるでしょう。
昨年末に就業規則を見直す機会がなかった企業では、雇用主のリスクを最小限に抑えるためにも、早めの対策が必要となります。
総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん
2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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