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トランプ大統領の大統領令

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トランプ大統領が就任初日から矢継ぎ早にさまざまな書類に署名している姿をニュースなどで目にした方は多いと思います。その一つ一つが大統領による命令である大統領令(Executive Order)であり、署名されるたびに有効となります。今回は、人事に関連する大統領令について、いくつかご紹介します。

就任後100日間の大統領令への署名数

就任から現在まで様々な大統領令が発行されており、2月7日時点でその件数はなんと56件を数えており、これは近年の大統領が就任後100日以内に署名した大統領令の数をはるかにしのいでいます。

出典: NBC News analysis of Federal Register data

大統領令とは

大統領令とは、アメリカ合衆国大統領が連邦政府の行政機関に対して発する命令であり、議会の承認を必要とせず、大統領の権限により即時に施行されます。

この制度により、連邦政府機関の方針や手続きが迅速に変更されるため、移民政策、国防、環境規制など幅広い分野に影響を及ぼすことが多いです。

ただし、法律の制定や改正は議会の権限であり、大統領令が議会の制定した法律に反することはできません。また、裁判所が違憲と判断すれば、その大統領令は無効となる可能性があります。

大統領令は、行政の迅速な対応を可能にする一方で、法的な制約や政治的な影響を受けるため、議会や裁判所とのバランスが常に問われます。特に、第二次トランプ政権は、このバランスを軽視し、強硬な政策を推し進めています。その結果、すでにいくつかの大統領令が訴訟の対象となっており、今後の展開が注視されています。

企業が注視すべき人事関連の大統領令

日系企業にとって、大統領令の影響は、関税だけでなく、人事関連の規制にも及びます。特に、雇用やビザに関する政策の変更は企業の人材戦略に直結するため、最新の動向を正確に把握し、適切な対応を講じることが不可欠です。

以下に、企業が注視すべき主な人事関連の大統領令を挙げます。

大統領令発行日内容
採用凍結1月20日行政府における連邦文民職員の雇用を凍結する。2025年1月20日正午時点で空席となっている連邦文民職は補充できず、この大統領令で別途規定されている場合を除き、新たな職種は創設できない。軍隊の軍人や移民執行、国家安全保障、公共安全に関連する職種は除く。
外国のテロリストやその他の国家安全保障と公共の安全に対する脅威から米国を守る1月20日連邦政府機関全体の移民およびビザ発給に関する審査、およびスクリーニング基準の監視を強化する。国務長官、米国司法長官、国土安全保障長官、国家情報長官は、自国民の入国を一時停止するに値する国を特定し、移民プログラムを再評価して、米国民の安全と安心を守るより厳格な統一基準を作成する。
過激で無駄な政府のDEIプログラムと優遇措置の廃止1月20日連邦政府全体の「多様性、公平性、包摂性」プログラムをすべて廃止する。無駄が多く、差別的であると見なされるプログラムを削減することを目的としている。
違法な差別を終わらせ、実力主義の機会を回復する1月21日連邦政府機関に対し、多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティ(DEIA)フレームワークを実施する民間組織と契約を交わさないよう指示している。具体的には、政府の請負業者による積極的差別是正措置の実施を禁止している。政府機関と取引のある企業は特に注意が必要である。

採用凍結

連邦職員の採用凍結そのものが日系企業に与える影響は、限定的と考えられます。しかし、イーロン・マスク氏率いる米国政府効率化省(DOGE)による政府機関の縮小や廃止、政府職員の早期退職募集などと相まって、優秀な人材が民間へ流れる可能性があります。企業にとっては、政府機関から流出する高度人材を新たな採用の選択肢として捉えることも視野に入れるべきでしょう。

出入国

駐在員を抱える日系企業にとって一番の関心事はやはり「外国のテロリストやその他の国家安全保障と公共の安全に対する脅威から米国を守る」という大統領令ではないでしょうか。これにより、各種ビザの審査の厳格化、米国入国時の審査強化、さらに、合法就労を証明するI-9書類の監査拡大が予測されています。このため、既にビザを取得して入国している駐在員も、日本への一時帰国後の再入国時に厳格な審査を受ける可能性があります。特に、入国審査時の質問への対応準備は必須です。また、I-9監査への対応として、書類に不備がないか事前に確認し、必要に応じて修正・整備しておくことが求められます。 

DEI(Diversity, Equity & Inclusion)

トランプ大統領就任前からDEI(Diversity, Equity & Inclusion)に対する世論は変化しつつありましたが、大統領令によってその流れは決定的なものとなりました。政府のDEI関連ウェブサイトの閉鎖、職員の強制休暇、資金の凍結などが実施され、政府機関のDEI推進が事実上停止しました。

この方針は民間企業にも波及し、各社が対応を迫られている。ウォルマート、アムトラック、グーグル、メタといった企業は、年次報告書からDEIに関する記載を削除し、採用時に多様性向上を目的とした採用目標を設定しない方針を発表しました。また、DEI関連部門の閉鎖や予算削減を進める企業も増えています。 

一方で、DEIの推進に積極的な企業も依然として存在します。例えばコストコは、「多様な人材の活用は米国経済に良い結果をもたらす」とのバイデン前政権の方針を引き継ぎ、引き続きDEIを重視する姿勢を示しています。こうした状況の中、世論は「行き過ぎたDEIを是正し、実力主義に回帰すべき」とする意見と、「多様性を重視することで、組織の競争力が向上する」と評価する意見とに二分されています。

企業は世論の動向に振り回されるのではなく、自社の経営戦略として何が最適かを慎重に検討する必要があります。特に、人材マネジメントにおいては、逆差別を含むいかなる「差別」も許容されないという原則を再確認し、公平性と実力主義のバランスを維持することが重要です。企業がどのような方針を採用するにせよ、一貫性を持ち、透明性のある運用を行うことが、今後の人材戦略において鍵となります。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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