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第108回 日本の契約書と米国の契約書の相違点

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日本でビジネスをし、日本の契約書を見慣れていると、「米国の契約書は長く複雑で、しかも作成に時間とコストがかかる」と感じる方が多いと思いますが、これにはいくつかの理由があります。今回は、米国の法律と米国でのビジネスにおいて、日本の契約書に何が欠けていて、なぜ欠けているのかについて、簡単にご説明します。

もくじ

日本の契約書

日本の契約書は、当事者を “甲” と “乙” と呼び、契約書に列記されていない当事者は一般的に契約書の約束事から除外されます。建設契約書や売買契約書などがよく扱われる契約書ですが、内容としては主に、金額と支払、支払方法、及び権利義務の譲渡の否可が最初の項目に明記されます。

さらに、契約解除の項目は、不履行の場合の条件と、延長の方法が主な内容ですが、延長は、「もし延長をしない場合は何日前までに申し出をし、申し出がない場合は自動延長となる」という条件がほとんどです。中には損害の際の条件が設けられることもありますが、条件内容は非常に簡易的なもので、損害の責任を当事者が受けることを保障する内容はあっても、一般的には、損害の度合いやその支払や責任・検査を受けるタイミングなどの詳細に欠けています。

米国の契約書

米国の法律でよく作成される契約書には、当事者の定義、つまり、当事者が個人または企業だけでなく、その従業員や代理人等に被るか否かが明確されています。前述の日本の契約書に見られる項目以外に、企業秘密等に対する扱い方(よくNDA と呼ばれるもの)、情報や知的財産権の所有の範囲、保障や賠償責任の方法とその範囲、問題が発生した場合の問題解決方法、裁判・調停の際の場所・管轄地・該当法律(州法)が特に詳細に記載されています。

日本の契約書に比べ、支払い方法などに関してはそれほど詳細に記載されず、むしろそのような内容はビジネス上決定することと解釈され、契約書の添付書類(Statement of Work)として扱われることが多くあります。また、契約解除の条件と項目は日本の契約書と異なり、綿密に規定されているため、巧妙な条件のある契約解除の項目については専門家の意見を求める必要があります。

相違の理由と注意点

一般的には、日本(語)の契約書が4ページであれば、米国(英語)の契約書は12~15ページで作成されます。米国の契約書が長くて複雑かつ作成に時間がかかる理由は、米国は、憲法・連邦法・各州法上の解釈を必要としており、また、訴訟が多い国であるため、訴訟や問題を最小限にとどめようと、両者の契約の意図を明確かつ詳細に契約書に反映させた上で業務を行うことが必要とされるからです。

日本のように長期の関係を狙いとするのに対し、米国では、一般的には、業務に相当の利点がなければ被害を最小限にとどめて速やかに契約を解除できる契約書が理想とされます。

例えば、日本側が支払い不履行を理由に、何日前に相手側に通知をして契約解除を求めても、それを無視するか、または支払方法の改正を求め、契約解除有効期限を過ぎても業務を続けざるを得ない方向に進められることもあります。また、米国企業が契約解除項目を無視して一方的に業務を停止し、その後、蓋を開けてみたら、日本企業との業務関係を通して得た情報を利用して別の競合他社と事業をしていた、などというケースも少なくありません。

さらに、これらの紛争の解決地や法律該当地が米国であればなおさらのこと、日本企業にとっては不利な立場に置かれることになります。

このように、相手の良識や誠実さに頼る日本の契約書とは異なり、米国の契約書はあらゆる場面で契約書の文言に従って業務がなされるがゆえに、細かいところまで慎重に確認し、契約書を準備する必要があります。その結果、米国での訴訟も最小限に抑えることができるのです。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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