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第133回 雇用主による新型コロナウイルスの予防接種義務付けについて

2020年末より新型コロナウイルスの予防接種が提供され始め、多くの雇用主が事業の通常業務を一時も早く再開することを目的に、予防接種に関する対策を検討し始めています。今回は雇用主の義務と関連の法的問題について簡単にご説明します。

雇用主としての責任

まず、雇用主には、Occupational Safety and Health Act (OSHA)の規定に基づき、従業員の安全と健康を守る義務があります。したがって、従業員に働く場所を提供する際、COVID-19によって全従業員が感染しないよう努力することが求められるため、従業員に新型コロナウイルスの予防接種を義務づけることが可能です。

ただし、従業員には接種を拒否する権利があります。

2020年12月16日に Equal Employment Opportunity Commission(EEOC)が発行した指示書(EEOC Issues Updated Covid-19 Technical Assistance Publication | U.S. Equal Employment Opportunity Commission)に法的問題を避けるための説明があります。主な内容は次のとおりです。

雇用主の従業員に対する予防接種の義務付けについて

まず、雇用主は、予防接種を義務づける際、予防接種が職業・事業経営上必要であることを証明する必要があります。また、健康に関する情報は個人情報とみなされるため、雇用主が従業員に健康に関する検査報告を強制することは法的に問題です。そのため、雇用主は従業員に対し、自主的に接種に関する情報を開示させるよう促さなければなりません。

ただし、従業員が「予防接種を受けた」と回答した場合、雇用主として接種証明を要求することはできます。

従業員が接種を拒んだ場合の対応について

予防接種を拒んだり、接種済みか否かの回答を拒否する従業員に対しては、雇用主は例外を考慮する必要があります。例えば、American Disabilities Act(ADA:障害を持つアメリカ人法)や Title VII of Civil Rights Acts of 1964(公民権法第7編:雇用差別の禁止)の下、身体障害や宗教的理由によって接種が許されない場合や、健康状態によって接種によって副作用が起きれば新型コロナウイルスの予防よりも害の方が大きい場合もあるため、接種を避けることを希望する従業員がいることが考えられます。

しかし、Health Insurance Portability and Accountability Act(HIPAA:医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)によって従業員の健康診断に関する情報は個人情報とされるため、回答を拒否したり接種を拒否する従業員に対して強制的に拒否の理由を聞くことは困難です。

法的問題問題を避けるための対応について

これらのことから、雇用主は前述の ADA に基づいて予防接種を拒む従業員に対して、リモート勤務や隔離可能な業務など、予防接種をせずに感染を避けることが可能な業務設備(accommodation)を利用する機会を与える必要があります。リモート勤務や隔離勤務が不可能であったり、そのような設備の導入に企業側に多大な負担がかかる場合は、雇用主は従業員を業務から外すことが可能です。

しかし、こうしたことから即時解雇が可能というわけでもありません。予防接種が雇用条件と解釈されると「不当解雇」として訴えられたり、「接種拒否に対する報復として解雇された」と訴えられることも考えられます。

米国憲法修正第1項で宗教や表現の自由という個人の権利が守られていることからも、仮に従業員が雇用主の意図を誤解していたとしても告訴する権利があり、雇用主が従業員の誤解と主張して訴状却下を求めても認められるとは限りません。
したがって、予防接種を拒否する従業員への対応は慎重に行うことが必要です。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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