サイトアイコン junglecity.com

第8回 アメリカの市民権・永住権・ビザのステータスと、雇用の関係

#image_title

アメリカは多民族国家であるため、採用時や解雇時に問題が頻発します。雇用者は給料が割安な不法入国者や不法滞在者を雇用することがしばしばありますし、不法滞在者は少しでも収入を得ようと雇用に必要な書類を提出しなかったり書類に偽りの情報を記入したりすることが多いです。こうした行為はもちろん違法ですが、市民権がないことを理由に不採用にしたり、解雇したりすることも違法です。

このような違法雇用を防止するため、被雇用者の W-2書式に記入された情報が社会保障庁が保管している情報と一致しなかった場合、連邦政府は2007年9月より社会保障庁を通じて「不一致の通告(No Match Letters)」を雇用者に送付し始めました。統計によると、昨年1年間のみで12万人の雇用者がこの通告を受け、また、730万人の被雇用者がこの通告の対象となっています。この通告では被雇用者の移民問題に関しては一切触れていませんが、雇用者は対象となった被雇用者の情報を正し、社会保障庁に90日以内に報告する義務があります。これができなかった場合は、新たに3日間の猶予期間を与えられますが、さらにその手続きを怠った場合は、相当の罰則と罰金が雇用者に課されることになります。

被雇用者の情報は、移民局から義務づけられている I-9 Form (雇用適確証明)で証明できます。雇用者は、市民権を持つ被雇用者も含め、すべての被雇用者にこの I-9 Form に必要事項を記入させる義務があります。また、2007 年11月からは、移民局は新規に採用された被雇用者に、新しいタイプの書類に記入することを義務付けました。この I-9 Form の監査は移民局が行い、採用後3年間、解雇後1年間は、雇用者が保管することが義務づけられ、書類の管理を怠った場合は相当の罰金が課されます。

ところが、こうした義務付けに伴って、差別による不採用・解雇が発生する可能性が高まりました。例えば、市民権の有無で採用を決定したり、社会保障庁から届いた “No Match Letter” を理由に解雇したりするというケースが発生しています。採用・不採用の決定や解雇の理由に関しては I-9 Form にも明記されていますが、書類に関わる問題がもとで被雇用者を不採用にしたり解雇したりすることは禁止されています。つまり、第1回のコラムでも少し触れたように、国籍や市民権の有無によって不採用・解雇にすることは法律上禁止されているのです。

例としては、面接の際に2人の求職者のうち1人が市民権保持者で、もう1人は市民権保持者ではないことが I-9 Form を通してわかったとしましょう。この場合、市民権保持者でないことを理由に不採用にした場合は差別として扱われる可能性があります。また、最近のケースですが、雇用者が被雇用者に関する “No Match Letter” を受け取り、情報を正すように被雇用者に通告した後も被雇用者が情報の訂正を怠ったため解雇したところ、そうした雇用者の努力にもかかわらず、法廷では解雇の理由が不十分と判定されました。つまり、”No Match Letter” そのものは、被雇用者が違法滞在・違法就労をしている証拠にはならないため、差別によって解雇したと解釈され得るわけですいずれにしても、雇用者としては不法に就労していた被雇用者は解雇せざるを得ませんが、企業としては差別待遇の疑いをもたれる解雇の仕方を避ける努力をしなければなりません。例えば、面接時に求職者の市民権などの情報を入手することを避け、採用した後に I-9 Form を提出させるのが賢明でしょう。また、仮に “No Match Letter” を社会保障庁から受け取ったとしても、必ずしも被雇用者が違法行為を行なっているとは限らないということを念頭に置き、十分な書類審査と手続きを行なうことも必要です。求職者も、雇用者が運転免許証ではなくパスポートを面接に持参するよう求めてきた場合は、差別が発生する可能性があることに気をつけるべきです。

いずれにしても、企業としては、I-9 Form を定期的に更新し、”No Match Letter” を受け取った段階で適切な手続きと訂正をしたうえで、社会保障庁に連絡する必要があります。被雇用者としては、偽りの情報を提出することによって、罰則や罰金 だけではなく国外追放の可能性があることも心に留めておかなくてはなりません。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

モバイルバージョンを終了