第30回のコラムで、オンラインショッピングに関わる法律の一部を紹介しましたが、今回は、今年9月に米国議会(立法府)で制定された Consumer Review Freedom Act について簡単にご説明します。
年々オンライン・ビジネスの競争が激しくなるにともない、ビジネスはあらゆる手段を利用して売り上げ増加を狙っています。消費者としては、小売店での評判やブランドの信頼性のみではなく、それぞれの商品やサービスの購入決定をする要素として、オンライン・レビューの人気度や評価を確認することが多くあります。
このような消費者の心理を利用して、オンライン・ビジネス経営者は、商品やサービスについての良いコメントと評価のみを掲載したり、広告業者または消費者に報酬、またはそれに相応する支払いをすることによって良い評価を掲載することがよくあります。第30回のコラムでは、このようなオンライン・ビジネスと広告業者の関係を公開することが義務づけられていることについて説明しました。
上記に加え、最近は、批判的または否定的なコメントを避けるため、消費者、自社の従業員、または業者に対して、否定的・批判的なコメントをしないことを約束させる条項、例えば非難禁止条項や悪口禁止条項(Non-Disparagement Clause or “Gag” Clause)の入った契約書を交わすことを条件で業務取引や雇用契約をする企業が急増しています。結果として、このような条項に拘束されている業者、消費者、従業員が商品やサービスに対する批評・否定的なコメントを掲載した場合は、オンライン・ビジネス経営者が名誉毀損として訴えるという脅かし、または実際に消費者を訴えるようなことが過去にありました。
しかし、今年9月に制定された Consumer Review Freedom Act によって、このような条項を条件に業務を行うという契約書が禁止され、また、それらの条項を含む既存の契約書を無効として取り扱うことができるようになりました。
さらに、消費者、業者、従業員は、オンライン・ビジネス経営者が契約書をたてに非難禁止条項を強制的に執行しようとしても、商品やサービスに対する正直な意見を合法的に掲示することができるようになりました。
ただし、ビジネス契約上の企業秘密(Trade Secret)、例えば、業者とオンライン・ビジネス経営者同士のみで保持している情報、企業の経営状態や価格構造等、一般消費者が知る必要のない情報を公開することはできません。
最近はこれらの問題を伴うオンライン・ビジネス経営者に対する訴訟は増えていますが、消費者・業者にとっての損害がほとんどなく、弁護士を雇ってオンライン・ビジネス経営者を訴えるだけの意味がないため、実際訴訟になるような案件はまだごく一部です。
しかしながら、昨年(2014)、カリフォルニア州ではレビューを禁止する企業を州として罰する法律が全米で初めて制定されました。また最近では FTC (連邦取引委員会法)でもオンライン・ビジネス経営者への差し止めを求める訴訟もありました。
このような消費者の発言を守る法律は、米国憲法修正第1項で保障された表現の自由(First Amendment of the U.S.)の一部として重要であると判断され、今後は政府機関が積極的に介入することによって消費者の権利を守る立法運動が期待されます。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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