第43回のコラム「契約社員・独立契約者と正社員の誤分類 (Misclassification)の増加とそれに伴う問題」で、独立契約者と正社員の誤分類によって発生する問題を取り上げましたが、今回は、誤分類を修正する際に雇用者が気をつけなければならない点について、過去の事例・判例に基づいて簡単に説明します。
企業が納税する際、正社員に関しては Form W-2(源泉徴収表)を、独立契約者(independent contractor)に関しては Form 1099を IRS に提出します。
正社員として採用すると、雇用者は、社会保障(Social Security)、高齢者医療保険(Medicare)、失業保険(Unemployment Taxes)、 労働災害保険(Workers’ Compensation Insurance)などの支払い義務がありますが、独立契約者に対しては業務料以外支払う義務がありません。従って、一般的には、 正社員と独立契約者が同質の仕事をするのであれば、誤分類を避けるため、独立契約者への支払いに関しては、個人で負担しなければならない上記の福利厚生や所得税などの源泉徴収を上乗せした業務料を支払う必要があります。
しかしながら、税法上で独立契約者として業務を依頼していても、雇用契約法上で独立契約者に福利厚生や有給休暇を与えることが可能です。
例えば、日本人の場合、E ビザ等で自社を経営している方(または米国の企業経営者)がある別の企業(雇用者)の独立契約者として業務をする場合です。独立契約者が企業でフルタイムの正社員と同質の業務を派遣社員のような形で業務をする場合があります。もしこのような独立契約者が企業にとって欠かせない役割を果たしているのであれば、企業が独立契約者の仕事を確保するために、福利厚生・有給休暇・ボーナスのような付加価値を与えることがあります。この場合、表面的には正社員と同じように働いていても、雇用者(企業)と独立契約者との間で付加価値を与えることに関する契約が交わされていれば、雇用法・契約法において問題はありません。
ただし、正社員に同じ業務を担当させているにもかかわらず、途中で独立契約者に切り替え、福利厚生や源泉徴収分の業務支払額(給料)を上乗せせず、さらに今まで契約者が蓄積してきた有給休暇や病気休暇を帳消しにすることは問題となります。仮に、正社員から独立契約者に切り替える際、業務支払額(給料)を引き上げて調整を取ったとしても、今まで蓄積してきた有給休暇や病気休暇は清算した上で、新たな契約をする必要があります。
最後に、Form 1099を提出する独立契約者として採用し、正社員のように福利厚生や有給休暇を与え、のちに誤分類に気づき、その独立契約者の法的立場を明確にするために今まで蓄積してきた有給休暇・病気休暇や福利厚生を帳消しすることも、雇用法・契約法において問題があります。たとえ「その雇用者はそもそも独立契約者だったのを誤って正社員として扱っていたため、その間違いを正しただけである」と主張しても、 契約慣習法における解釈では、雇用者が独立契約者に福利厚生と有給休暇を前提にしていたという理論が成り立つため、途中で誤分類を修正する手続きをする際には十分な注意が必要です。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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