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第7回 転勤や雇用形態変更に伴う契約書の法的有効性

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最近の不景気による企業の再編に伴い、従業員の異動や雇用形態変更が多く発生しているようです。通常、企業は異動、特に雇用形態変更の対象になった社員と、新しい雇用契約を結びます。変更後の雇用契約書にはさまざまな条項が記されていますが、雇用形態が変更になった場合に特に注意しなければいけない条項として、次の事柄などが挙げられます。

業務内容とその制約(Services)
企業によっては、業務内容の要求を厳しくしたり、使用できる備品・場所・情報を制限することもあります。仮に給料が同じでも、業務範囲と内容に無理があった場合は、交渉する必要があります。また、専門職や特別の地位にある従業員以外には、時間外手当を支払う義務があります。

解雇方法(Termination)
通常、解雇自由の原則(Employment at will)が採用されるため、いかなる理由があろうとも、いつでも解雇できるようになっています。ただし、解雇の通知に関しては、ある程度の猶予期間を与えるのが通常です。これに対し、解雇理由の原則(Termination for Cause)が採用されている場合は、契約書内に解雇の理由についての説明があるはずです。

任期(Term)
任期に関する取り決めは、さまざまです。正社員として異動になった場合は、たいがい上記のように解雇自由の原則(Employment at will)が採用されるため、期間は定められていないのが通常です。これに対し、契約社員の場合は任期があるものとないものがあり、どちらになるかは交渉次第です。

保証と損害賠償保障義務(Warranties and Indemnity)
保証の内容は幅広く、企業の秘密事項や資料など、知的財産権に関わる保護を強調する内容が多く見られます。例えば、企業がどのように商品を発明・開発したかなどの知識や、ある特殊な情報をどのように回収してまとめたかなど、一連の知識は企業秘密として、従業員が社外に漏らさないようにする必要があります。また、企業標章によって利益を得ている場合は、従業員がその標章を勝手に利用して個人的利益を得ないようにすることも重要です。

損害賠償保証義務は、何らかの害・問題が発生し、それを解決するために発生した支払いについて、どちらがどのように賠償するかの規定を設ける項目です。これは上記の保証と密接な関係があります。例えば、もし従業員が上記のような企業秘密を競合会社に漏らし、企業利益に支障をきたした場合、従業員個人にその責任があり、賠償するという義務を設けます。これは企業利益の損失に対する賠償責任ですから、従業員にとっては大きな負担です。または、従業員が期限内に仕事を終えなかったがために企業が重要な顧客を失った場合にも、従業員個人が賠償するという義務を設けることもあります。さらに、従業員が個人レベルで違法行為を犯し、企業の名誉に傷をつけた場合も賠償の義務を設けることができます。この損害賠償義務に関しては時々、企業側から従業員に対する賠償責任を求める一方的な条項を設ける場合もありますが、従業員はこの条項に企業が従業員に対して賠償責任を負う項目を設けられていることも確認する必要があります。例えば、企業が違法行為を犯した場合はもちろん、企業が雇用契約書自体を勝手に不履行、または破棄したり、それぞれの条項に記されている内容に違反するような行為をとった場合は、企業に賠償を求める権利を確立しておくことは重要です。

統治する法律と裁判区域(Governing Law、Jurisdiction、Venue)
どこの国、あるいは州の法律で雇用契約書が統治されているかは、企業と従業員間で問題があった場合に重要となる項目です。また、そうした問題・不和がどのような形で解決されるかについては、解決法によっては費用が異なってくるため、一度目を通して納得のいく方法を選ぶことです。例えば、企業の本社がアメリカのシアトルにあり、支社が東京にあった場合、おそらくアメリカのワシントン州法によって雇用契約書が解釈され、不和もシアトルの法廷で解決されるというのが通常ですが、もし従業員が日本に転勤になった場合、不和の解決をシアトルの法廷で行うということは従業員にとって経費と労力の負担が大きくなります。従って、できる限り当事者同士で解決できる方法を選び、さもなければ、調停(Arbitration)などでできる限り費用の負担の少ない解決方法を取ることをお勧めします。

競業禁止条項 (Non Competition)
この条項については「第4回 雇用契約とそれに関わる雇用上の問題と解決」でも簡単に説明しましたが、最近のワシントン州最高裁判所で判定されたケースでは、雇用形態を変えた既存の社員と新しい競合禁止契約書を交わす際に、何らかの対価と報酬を社員に与えない限り、契約は無効と判定されました。例えば、転勤の対象となった従業員に対し、競業禁止の期間を1年から2年に延長した場合、この従業員に対し特別の報酬、あるいは利益を与えなければいけません。また、正社員から契約社員に変更した社員や減給の対象になった従業員に対して同じ条件の競合禁止期間と条件を設けた場合、おそらく法廷からは契約無効と判定されるでしょう。いずれにしても双方にとって妥当な制約を定めない場合は契約が無効になる可能性があるので、この競合禁止を設ける企業にとっては、弁護士の助言を基に競合地区や競合相手の限定も精査することが重要です。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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