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第59回 最低賃金適用除外社員と最低賃金該当社員の誤分類とそれに伴うリスク

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従業員を採用する際、雇用主の重要な関心事は給料の支払い額です。できる限り低い賃金で仕事をする従業員が望ましいわけですが、時として、支払額を減らすために、法律の抜け穴を利用して表面的に法的に給料支払いをしているかのように見せかけて不当な支払いをする雇用主も見かけられます。ワシントン州法では、従業員の分類として、最低賃金適用除外社員(Exempt employee)と最低賃金該当社員(Non Exempt Employee)がありますが、前者の最低賃金適用除外社員(Exempt employee)には残業手当を支払わなくて済むこと(RCW49.46.130(1))を利用しようとする雇用主が多く、最近問題になっています。今回はこの問題についてご説明します。

まず、従業員を採用する際、雇用主は最低賃金適用除外社員(Exempt employee)と最低賃金該当社員(Non Exempt Employee)を区別します。それには、従業員の役職(ポジション)の記載が正確でなければなりません。一例として、”Sales Representative” や “Territory Manager” などが挙げられますが、一見すると、後者の “Territory Manager” は特殊な職業で、しかも重要な役職のような印象を受けます。その従業員が店のレジの仕事や棚の整理をするのであれば、当然 “Territory Manager” という肩書きにならないはずですが、これが故意の誤分類であれば、違法行為と見なされます(RCW 49.52.050.)

このような違法行為を統括・監視するのは、州や連邦の労働局やIRS(国税庁)です。これらの政府機関から残業手当無支給に関する問い合わせがあった場合、雇用主はは残業手当を支払わないで良い理由を証明する義務があります。このような問い合わせは、多くの場合、残業手当を受けなかった従業員、または元従業員が政府機関に通報することによって調査が開始されることがよくあります。その場合、従業員の役割を正確に説明できなかったり、政府が「故意に誤分類した」と判断したりすれば、雇用主に罰金が課されるだけでなく、犯罪行為を犯したと見なされることもあり、また、対象となる従業員への正当な支払いも求められます。さらに、従業員も雇用主も弁護士を雇っていた場合、雇用主が両方の弁護士費用の支払いを求められることがあります。最近の事例で、ワシントン州最高裁判所が、元従業員が請求した残業代の未払賃金$24,406に対し、その元従業員の弁護士費用 $700,000の支払いを雇用主に命じるという案件がありました(FIORE v. PPG INDUSTRIES INC. 169 Wash. App. 325, 279 P.3d 972. (2012)). この案件の解決には3年かかりましたが、元従業員は最初から$24,406の未払賃金の支払いのみを求めて穏やかに交渉しようと努力したにもかかわらず、 雇用主は支払いを避けようとして何人もの弁護士を次々と雇って戦おうとしたがために、このような異例の結果となりました。

したがって、誤分類をしないよう、法に従って従業員に正当な支払いをすることは重要です。分類に疑問があれば法律の専門家に相談し、間違っていればそれを正す必要があります。また、仮に誤分類をしたとしても、雇用主としてはそれを正し、正当な支払いをすれば、リスクも少ないはずです。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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