雇用契約を交わす際、被雇用者(従業員)として気をつけなくてはならないことの一つに、競業避止条項や勧誘禁止条項が挙げられます。
多くの雇用契約にはこれらの条項が組み込まれていますが、その内容によっては被雇用者に不利になることがあります。
また、雇用主側も弁護士に契約書の作成を依頼する際、それぞれの州法及び判例法に従った定義と制約になっているか確認する必要があります。
今回は、この二つの条項について簡単にご説明します。
1.競業禁止条項(Non-Compete)
たとえば、日本の企業が特許品を米国で販売する際(特許を米国で申請・認可されていることが前提です)、販売社員を米国で採用し、この社員に会社の特許内容や販売戦略を教えたとします。
しかし、この社員の退職または解雇によって、競合他社に特許内容や企業秘密などが漏れると、会社経営に不利になります。これを防ぐには、この社員と競業避止条項・契約を締結する必要があります。
ただし、被雇用者は退職後も収入を必要とするため、制約期間の制限は雇用主のリスクと被雇用者の雇用機会とのバランスによって決定されます。ワシントン州で妥当な期間とされるのは1~2年です。
競業避止条項の営業範囲に関する制約については、特許品と競合する商品が米国で販売されていない場合、この社員に対する競業避止の営業範囲を「米国全土」とすることは可能です。競合となる商品がワシントン州内ですでに販売されている場合は、営業範囲の制約を「ワシントン州」にすることが可能です。
また、ワシントン州の判例法上、すでに採用している社員に競業避止契約書を条件として追加する場合は、その制約に相応する対価・報酬を与える必要があります(参照: Labriola v. Pollard Group, Inc. 152 Wn.2d 828, 100 P.3d 791 (2004))。方法としては、一般的には昇給または昇格という形になります。
2.勧誘禁止条項(Non-Solicitation)
この条項は、退職した社員が元同僚を勧誘して退職を促すことを禁止する条項で、一般的には全米で合法とされています。
社員が退職後に同業他社である会社で一定期間働くことを禁止する上記の競業禁止契約と異なり、退職した社員が勧誘することによって一方的に企業の人材や財源が奪われることを阻止する手段であることから、正当な手段として認められています。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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