第24回のコラムで秘密保持契約(NDA)の概要についてご説明しましたが、今回は、この NDA がいつまで有効で、交渉後の契約にどのように影響するかということについて例(判例法)をあげて簡単にご説明します。
まず、事業交渉の際の手続き上、交渉前には必ずと言っていいほど NDA を交わします。その理由は、事業契約につなげるためには企業の機密内容を交渉の相手に開示する必要がありますが、実際に事業契約が終結しなければ、企業秘密等の情報を相手に盗まれ、相手の経営利益のために使用される可能性があるからです。このような NDA がないまま事業交渉をすると、事業契約の意思がないにもかかわらず交渉の計画を立て、交渉中に相手企業の企業秘密を探り、その情報を自分の企業の営利のために利用するという会社も少なくありません。したがって、交渉の前に NDA を交わすことは重要です。
交渉が成立し、企業同士の事業契約が成立した場合、NDA がどのように影響するかは、NDA の内容によって異なります。NDA は事業交渉の前提として当たり前のように交わされている契約書なので、仮に弁護士に依頼して NDA を交わしても、その内容は通常ごく一般的です。たとえば、”obligated person will hold in strict confidence and trust and maintain as confidential all proprietary information and any information derived therefrom…for a period of five (5) years from the date of this Agreement…” というように、どのような情報も企業秘密情報として扱われ、5年間は外部に漏らさない、などという条項が一般的です。しかし、実際に交渉が成立し、二者(2企業)が共同で業務を開始した際、この NDA の制限の範囲と両企業の知的財産権の範囲が明確になります。
つまり、NDA の目的は企業秘密を守るのもであって、共同事業開始後、知的財産権をどちらの企業が所有しているかという問題とはまったく別なので、共同事業を開始した時点で知的財産権所有や共同事業契約書等を通してお互いの業務と役割の規定を示す、NDA とは別の契約書を新たに交わさない限り、NDA を理由に相手企業の情報所有権を主張することはできません。たとえば、相手企業が保持または開拓・創造した情報を自社企業の事業に利用し、利益を得た場合、もし両企業間で Work Made For Hire(第37回のコラム参照)といって、相手企業で開拓・創造された情報はすべて自社のものになるという契約書を交わさない限り、相手企業が自社の仕事をしても、開拓した本人(企業)がその知的財産権を所有するものであって、自動的にその権利が自社に移行するものではないということです。また、もし開拓された情報や商品を自社知的財産権として主張したいのであれば、Work Made For Hire を確立するとともに、それなりの報酬を創造者・開拓者に支払う必要があります(Touch Networks, Inc. v. Goji Design, LLC 163 Was. App. 1012 (2011) )。
言い換えれば、NDA は、一般的には秘密開示を防ぐためのみの目的をもつ契約書であり、共同事業が成立した場合、自社の財産(知的財産権を含む)を守る契約書を別途交わさない限り、自社開発商品・情報として法的主張ができないことになります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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