今回は、有給休暇や有給病気休暇の法的仕組みと、その休暇によって従業員に与えられた権利と義務について、簡単にご説明します。
多くの企業では、年間を通じて有給休暇と有給病気休暇を当たり前のように与えていますが、これらの休暇は、シアトル市の病気安全条例(Seattle Paid Sick and Safe Time Ordinance)で義務付けられている有給病気休暇等の例外を除いて、すべて任意の有給休暇・有給病気休暇であり、法的に義務付けられている福利厚生ではありません。(RCW 49:Labor Regulations)つまり、これらの有給休暇・有給病気休暇は、第69回のコラムでご説明した代休とは法的に異なる解釈がされています。
ちなみに、代休は残業した時間分の残業代として報酬を受けるのではなく、代休として消化するという意味を持ち、すでに与えられた労働の対価として報酬を得る権利が従業員に与えられています。ですから、雇用者は、解雇・辞職の際にその報酬・未使用の代休を時間割りで従業員に支払う義務があります。
このように、有給休暇・有給病気休暇が州法で義務付けられていないため、多くの場合は、それぞれの企業の雇用契約書または従業員規定に詳細が記載されています。たとえば、就業年数に従って、年x日の有給休暇とx日の有給病気休暇が与えられ、これらの有給休暇の来年度への繰り越しが可能かどうか、または従業員が辞職した場合や解雇になった場合に使用しなかった有給休暇に対して支払いがなされるのかなどです。これらの詳細が雇用契約書または従業員規定に記載されていない限り、判例法上、解雇・辞職の際に、従業員は使用されなかった有給休暇・有給病気休暇に対する支払いを受けられないこともあります。
例外のひとつとして、上記にシアトル市の病気安全条例(Seattle Paid Sick and Safe Time Ordinance)を挙げましたが、参考までに、シアトル市内に企業を持つ該当雇用者用に条例適用の仕組みをまとめた表をご覧ください。
General Information | Small (Tier 1) Employer | Medium (Tier 2) Employer | Large (Tier 3) Employer |
---|---|---|---|
Full Time Equivalents (FTEs) | More than 4-49 employees | More than 49 to 249 employees | 250 or more employees |
Accrual of paid sick/safe time | 1 hour / 40 hours worked | 1 hour / 40 hours worked | 1 hour / 30 hours worked |
Use of paid sick/safe time | 40 hours / calendar year | 56 hours / calendar year | 72 hours / calendar year |
Carryover of unused paid sick/safe time | 40 hours / calendar year | 56 hours / calendar year | 72 hours / calendar year |
その他の適用の仕組みについては、最近または将来の従業員は、雇用180日後から有給病気休暇が発生しますが、特に2012年9月以前とその直後に採用された従業員、または季節労働者の有給病気休暇発生日は異なります。繰越に関しては、Tier1は40時間分、Tier2は56時間分、Tire3は72時間分を限度に来年度まで繰り越しが可能ですが、雇用契約書または従業員規定に明記されていない限り、解雇・辞職の際は、未使用の有給病気休暇時間分の支払いを受けることができない場合があります。
なお、病気休暇については、育児介護休業法(Family and Medical Legal Act)や米国・州障害者法が該当する場合もありますが、どちらも有給として義務付けられていません。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com
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