秘密保持命令とは、訴訟の証拠開示の際に、証人や当事者に対するハラスメントや情報の悪用を阻止するために取得する裁判所命令です。
一般的に、証拠開示は、訴訟当事者または第三者の証人から陳述証明や宣誓供述書を得ることによって、裁判で必要な情報を収集することが目的です。それは、当事者同士の陳述証明や通信のみでは信用に欠け、主張する事実を十分に立証することができないからです。証拠開示を行うと、第三者の意見や証人から証拠を得ることによって、速やかに真実・事実を発見できるので、効率よい裁判と裁判上の公正・正当さを促進することが可能となります。
証拠開示の過程では、裁判に直接関係があると判断される情報だけでなく、案件と直接関係のない情報を入手しようとしているかのような情報開示を求められることがあります。証拠保持者が「関係のない資料」と判断しても、弁護士顧客特権情報で保護されている情報以外は、証拠開示を求める当事者が「関係がある証拠」と主張して開示を求めることが可能です。
しかし、訴訟当事者、つまり証拠開示を要求している当事者が、裁判上必要な情報・書類であると主張しても、その目的が不当な目的であることも考えられます。例えば、証拠収集の目的が相手に嫌がらせやハラスメントをすることであったり、証拠収集後に入手した情報を証拠を開示した相手方当事者や第三者の事業と競合する事業に利用したりというような、不正利用やその他の悪用もあり得ます。このような事態に秘密保持命令を取得して対応した例として、10年ほど前に某大手コンピュータ企業が世界的な独占禁止法違反として訴えられたケースがあります。このケースでは、この企業の証拠開示対象の情報を選択し、Protective Orderの対象情報を決定するためだけに2年間を費やしました。この企業の秘密情報が原告側に流出することによって、数千億ドル単位の大きな損失をもたらす危険性があったからです。
証拠開示を求められる側としては、相手側による不当な情報・書類入手と証拠開示上での権利の乱用を避けるために、1)どの部分の情報が秘密保持のために守られるかの指定、2)秘密保持のための正当な理由、の2点を申請書に明記し、Protective Order(秘密保持命令)を裁判所に要求します。これらの条件が満たされていると判断されれば、裁判所から秘密保持命令が発行され、情報開示に制限を与えることが可能となります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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