第5回「解雇契約とそれに関わる問題点」で、解雇手当(severance)について簡単にご説明しました。
今回は、この解雇手当と、多くの日本企業が退職する従業員に契約上支払う退職金(retirement allowance)との違いについてご説明します。
アメリカでは、景気や企業の業績によって従業員の人数を減らす解雇(layoff)によって経営を維持したり、職種や肩書き相応の報酬を得ているにもかかわらず業務成績の悪い従業員を解雇すること(fire)はごく一般的で、法的にも文化的にも許されています。
しかし、「退職時に退職金を渡す」という契約は、雇用契約上、一般的ではありません。
そこで、在米の日系企業では、退職金(retirement allowance)と解雇手当(severance)をどのように扱うかが、よく問題になるようです。
退職金や解雇手当の支給は、レイオフでも解雇の場合でも、法的な義務付けはありません。
しかし、雇用契約で退職金の支給を約束している場合、支給しなくてはなりません。
なお、その退職金を解雇手当(severance)として支給することはできません。解雇手当は、一般的に、解雇契約書に基づいて、解雇時に従業員の企業に対する訴訟の権利を放棄させることが目的だからです。
つまり、雇用契約にもとづいて最初から退職金をあてにしている従業員をレイオフまたは解雇した場合は退職金を支払うべきですが、その従業員の訴訟する権利を放棄させるには、解雇契約書によって新たに解雇手当を支給する必要があります。
つまり、解雇する際に雇用者に対する訴訟権利を放棄させることによって、新たな対価(consideration)を与えなければならないということです。
なお、従業員の業務成績が悪いため解雇することに正当な理由があれば、解雇手当を渡す必要はありません。
しかし、レイオフの場合、企業に対する忠誠心のある業務成績の良い従業員に対しては、解雇契約書(解雇手当)を渡すことが一般的です。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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