今回は米国での売買業務で未払い金が生じた場合の対応について簡単にお話しします。
日本では、たとえ企業間の売買でも、信用があれば契約書を作成せず、註文書に基づいて商品を納入し、支払いをすることがあります。その際、支払いが滞ることがあっても、最終的に買い手が倒産しない限り、支払いを受ける確率が高いと期待されます。
しかし、米国企業との売買業務では、一般的には契約書を必要とします。その契約書の内容も、弁護士を通して条件/内容を交渉した上で業務を開始します。それは、未払い金や納品物に関わる問題などが発生する可能性が高い上、それらの問題が発生した場合の対処法を契約書に明記しておかないと、訴訟の際に債権者の立場が不利になるからです。
たとえば、日本企業が米国企業に納品したにも関わらず支払いが行われないため、日本側が支払いを要求したところ、米国側は納品物に欠陥があったことを理由に、支払いを拒んだとします。さらに、その商品の欠陥について日本側にまったく知らされず、日本側が支払いを要求して初めて商品の欠陥が知らされたとします。仮に米国側が未払いの口実として商品の欠陥を訴えたとしても、契約書がない売買をしている限り、訴訟による証拠開示を通さずには、日本側が米国側の口実を法的に証明する術がありません。ただし、契約書に、「商品を検査し、売り手(日本企業)に欠陥などの報告を30日以内に行わない場合は、欠陥がないと認める」という条項があれば、2ヶ月後に未払い金の回収を求めても、買い手(米国企業)が物品の欠陥を未支払いの口実にすることができなくなります。
さらに、契約書のない日米間の業務において最も厄介なのは、管轄地と裁判権の決定です。日本企業が米国企業を相手に米国で訴訟を起こす場合、裁判所の所在する州で認可された弁護士を雇う必要があります。また、訴訟を起こしても、米国では証拠開示手続きなどを必要とするため、訴訟費用は日本での訴訟額をはるかに上回ります。
このように、契約書のない日米間の商品売買は多くの面でリスクが伴いますが、未払いの問題を極力避けるため、註文の際、商品納入前に支払いを義務付けるのは方法のひとつです。 企業同士の力関係や需要によって前払いの不可が決定されますが、交渉を試みる価値はあります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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