弁護士に契約書の作成を依頼する際、依頼主が契約書の目的と内容等を指示する必要のある契約書と、弁護士に内容等も含めてほとんど任せて作成できる契約書があります。
前者に含まれる別離契約書には、大きく分けて、雇用関係の終了の際の契約書と、離婚の際の契約書の二つがあります。これは、当事者同士の問題と力関係によって内容が大きく異なるため、依頼主は作成の目的を前もって十分理解しておく必要があります。
雇用関係の終了を目的とする別離契約書
まず、雇用関係の終了を目的とする別離契約書は Severance Agreement とも言い、通常、雇用主が解雇対象者に渡す契約書です。
この契約書の主な目的は、解雇対象者に解雇手当(severance pay)を支払う代わりに、解雇対象者が在職中に起きた問題等を理由に会社に対して訴訟を起こすことを阻止することです。
もちろん、この契約によって解雇対象者の失業手当給付金や COBRA(失業後約18ヶ月は保険を維持できるという法律)等の失業者を対象とする法的権利を阻止することはできませんが、差別・侮辱・虚偽の陳述・嫌がらせ(ハラスメント)等の民法に関わる訴訟行為を阻止することは一般的に可能です。
また、解雇対象者に対して競業禁止条項や企業情報秘密保持条項に署名させることもできます。ただし、そのような条件に見合う解雇手当(severance pay)、つまり雇用者としては解雇対象者の職歴・企業内での立場・業務成績・解雇による訴訟の可能性等を考慮した上で決定する必要があります。
解雇対象者が40歳以上の場合、OWBPA(40歳以上の被雇用者を保護する法律)に従って、21日間の考慮期間と7日間の署名取り消し期間を与えなくてはなりません。内容と条件が解雇対象者が受けとる解雇手当(severance pay)に相応しない場合は、解雇対象者が契約書への署名を避けることもあります。
離婚を目的とする別離契約書
次に、離婚の際の別離契約書ですが、通常、夫婦が離婚とその条件に同意している場合(Uncontested の場合)に用いられます。
そのため、一般的には相手の同意を得ずに離婚届を法廷に提出した場合(Contested の場合)、通常、別離契約書は成立しません。この別離契約書の利点は、離婚届を出す際に夫婦が問題点を話し合って同意に至っているため、離婚過程で予想外の問題が発生したり、訴訟問題になったりすることがほとんどないことです。
別離契約書は他の裁判所資料と共に提出する必要はないので、結婚生活において起こった機密情報を公にする恐れもありません。裁判所で指定された内容以外の点でお互いに同意した内容を明記することもできます。
内容としては、共同財産(動産と不動産)分割・個人財産の確認・扶養手当・借金分割・養育方法・親の権利と義務・退職金や保険等の処理など、同意できる範囲の項目を明記します。
ただし、この契約書を法的に有効にするためには証人が必要です。
なお、別離契約書の内容は、最初に法廷に提出した離婚申請(Petition of Dissolution)の内容と異なっていても、最終的な離婚宣言書(Decree of Dissolution)の内容と矛盾していなければ、たいてい裁判所で認可されます。
ただし、別離契約書の内容を離婚手続きの過程で変更した場合は、その内容を変更をするたびに証人の署名が必要です。最終的には、裁判所によって承認された離婚宣言書(Decree of Dissolution)に言及されている別離契約書 (例えば Exhibit A という形で、離婚宣言書の中で別離契約書に言及します)が法的に有効となります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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