米国政府は、1787年の合衆国憲法で三権分立を採用し、司法、行政(大統領)、立法機関が独立した機関として政治制度が成り立っています。また、連邦政府と州の関係は日本の国と県の関係と異なり、それぞれの州には独立したひとつの国として権限を与えられています。したがって、それらの州の憲法や州法が連邦法・合衆国憲法に反していない限り、また、合衆国憲法で決められている連邦政府の管轄に触れない限り、それぞれの州が自治権を持っています。
移民法は連邦法
合衆国憲法で連邦管轄として定められている分野のひとつとして、移民法があります。トランプ政権下で移民に対する方針が大きく変化しましたが、合衆国憲法で不法移民の取り締まりは連邦政府の管轄と定められていることから、州政府が不法移民の取り締まりの法律を独自に可決・執行することは、連邦政府の権限の侵害だと見なされています。
したがって、連邦政府は、移民の記録や運転免許証などの提出を求めることができると主張しています。
ワシントン州政府の対応
これに対し、ワシントン州のジェイ・インスリー知事は、移民に対する連邦法にもとづく質問・取り締まりの内容に制限を加える州知事令を発行しました。
特に、最近の指針として、連邦政府機関が移民の運転免許書などの記録を入手するには裁判所命令を必要とすると宣言しました。この指針は、特にオバマ政権下で制定された DACA(幼少期に親に連れられて米国に不法入国した若年移民の国外強制退去を猶予する措置)でドリーマーと呼ばれる不法移民が2018年3月より国外追放の対象になることへの対応としても知られています。
このような不法移民は一般的に、アメリカで育ったため英語が母国語で、また、アメリカのみならず他国のどこの市民権も持たないことが大きな問題となっています。また、経済力にも欠けるため弁護士料を支払うことができないことから、非営利の法律団体と契約する州政府機関(Office of Civil Legal Aid)が支援してきました。
OCLA(Office of Civil Legal Aid)
OCLA は、州政府から資金援助を受け、規定された州法 (RCW2.53)に従って運営することが義務付けられ、移民のみならず、消費者詐欺を受けた市民、ドメスティックバイオレンスを受ける女性や離婚手続き・訴訟にさらされている移民、売春を強要されている女性に対する援助をする非営利団体と契約することが許可されています。
ただし、弁護士料を支払わずにこのような援助を受けるには、連邦貧困ガイドライン(Federal Poverty Guideline)で定められる低所得者にあたることが条件となります。
上記に加え、OCLA の援助を受けられる法的問題として、2018年1月の州議会の結果、雇用法・身体障害、教育上の差別を含む差別一般を受ける市民・移民も対象となることが可決されました。ただし、今後はドリーマーを含む不法移民はその対象とならないことが決定されています。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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