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第18回 不法解雇の事例

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今回のコラムでは、増加している不法解雇の主な事例をご紹介します。

1. ある社員が勤務時間外に行った行為に対して責任をとらせるため、解雇した場合

基本的には、勤務時間外の行為は雇用者の管理外になるため、社員の行為を制御することは通常はできません。米国憲法修正第1項(First Amendment)で述べられているように、言論の自由が国民に保障されており、この行為を阻止すことは違法です。特に政府関係に勤務する社員に対してはこの権利が十分に保証されています。また、雇用者は被雇用者の業務に関わる不法行為に対しては通常、法的責任を負わなければなりません。さらに社員解雇の際にもさまざまな手続きと手順を考えなければなりません。解雇の対象となる社員に関しては、社員の勤務中の行為が不法行為(Tort)そのものであった場合は解雇することができますが、社員の勤務外の行為に関しては制御できる範囲が限られていますので、社員手引きを通して禁止されている行為、特に勤務外においての行為規定を列挙し、好ましくない社員行動を制御します。その後、その社員が禁止された勤務外の行為を何回か無視した場合は、社員規定違反を解雇の理由にできます。ただし、社員手引きの内容や規定そのものに法的に問題があった場合は手引き自体が無効になりますので、社員手引きの見直しと訂正は定期的にすることが大切です。雇用法は常に変化していますので、情報の更新はこまめにすることを勧めます。

2. ある社員が企業に問題を報告し、その対応をせずに解雇した場合

これは “報復”(Retaliation) ということで、公の秩序に反する行為としてさまざまな規則によって禁止されています。たとえば職業安全衛生法 (OSHA) によって、雇用者に企業の安全衛生に関する違法行為などを報告した社員を解雇した場合、差別待遇として扱われ、企業に罰則と罰金が科されます。また、公民憲法上 (Title VII of the Civil Rights Act of 1964)、 ある社員が同僚からセクハラを受けていたり民族による差別を受けていたため企業にクレームを出し、それが理由で解雇した場合も同様です。過去の案件から見ると、たいがいの企業は真実の理由を述べずに社員を解雇していますが (pretext)、社員が解雇後に企業を告訴した段階で、すべての証拠を法廷に提出する義務があり、正当な理由が書面にて提出されない限りは、たいがいは企業の敗訴に終わっています。

3. ある社員が妊娠・出産・育児の休暇を取っている間に他の社員を採用し、育児休暇中の社員を解雇した場合

第2回のコラムでも触れたように、社員は妊娠や出産において連邦・州法上の育児介護休業法 (FMLA)によって保護されています。社員が出産のため休暇を取っている間に別の社員を採用し、その育児休暇中の社員を職場に復帰させなかった場合は明らかな違法行為です。育児休暇中の社員の代わりに別の社員を採用すること自体は不法ではありませんが、その代わりの社員を契約社員として育児休暇中の社員が復帰するまでの一時的に採用とするか、育児休暇後の社員が他の部署で働けるようにするなどの企業側の努力が求められます。育児休暇後の社員は業務活動などに限りがある場合が多いのが現状ですが、社員がパートタイムでの勤務を希望していた場合はできる限りその希望に沿った扱いをするのが賢明です。特に不景気で数人の社員を解雇しなければならない状態になったとしても、妊娠・出産後や病後の社員を最初に解雇対象にするのは避けるべきです。さもなければ対応の努力をしなかったとみなされ、企業が法的責任を負うことになりかねません。

4. 契約社員を解雇した場合

契約社員と正社員の違いについては第10回のコラムでも述べましたが、連邦法の最低賃金などを規定する契約社員は厚生労働基準法(FLSA)の対象外となり、税金や社会保険などの福利厚生にかかわる出費もありません。また、雇用者と契約社員は独立した事業体として業務をするため、雇用者は契約社員の業務上の不法行為に対しても法的責任がありません。さらに、契約上の仕事を契約社員が遂行しさえすれば、解雇も比較的安易にできます。従って企業は契約社員に対して契約社員契約書さえあれば、経費だけではなく手間も省けるので、非常に都合のよい人材でもあるわけです。特に不景気になると多くの企業は契約社員を採用することによってコスト削減を図る傾向にあるので、契約社員採用の数は急増しています。ただし、日本企業だけではなく、多くの米国企業が誤解している点は、仮に企業が契約社員として採用しても、もしその契約社員を企業の監督下においた場合は、訴訟の引き金になるということです。つまり、契約社員が解雇された後に最低賃金規定違反で企業を訴えた場合、企業が「契約社員だったので規定対象外だ」と反論しても、法廷が企業がその契約社員を実際は社員として扱っていたと判断すれば、罰金はもちろん、契約社員に対しての法的責任を負わされます。実際、ワシントン州だけで6千以上の企業がこの契約社員採用に関わる問題に直面しています。上訴裁判所では「税金や福利厚生を払わなくてすみ、企業利益を増やすことができるため、多くの被雇用者が契約社員や臨時従業員として採用・解雇されている」というように注意書がなされています。従って、こうした雇用者の権利乱用を防ぐためにも、法廷では被雇用者の企業内での肩書にこだわらず、1)被雇用者がどのように仕事分担の配分をされていたか、2)雇用者がどのように被雇用者に指示を与えたか、3)実際被雇用者が企業の備品や車両を使用していたか、4)被雇用者が企業の名刺を使用していたかなどの点から調査をし、判決が下されます。

いずれの場合も、社員の解雇(この場合、契約社員の肩書きを持つ正社員を含みます)を予定する際には、業務評価表を準備し、解雇の理由が業務成績など、正当な理由があることを書面に残すことが企業側の答弁の大きな鍵となります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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