第112回のコラムで、差別に関する訴訟に必要な証拠についてご説明しましたが、今回は、雇用者が元社員に訴えられたときに考慮すべき訴訟全体の仕組みについて簡単に説明します。
第112回のコラムで、差別に関する訴訟に必要な証拠についてご説明しましたが、今回は、雇用者が元社員に訴えられたときに考慮すべき訴訟全体の仕組みについて簡単に説明します。
多くの米国企業は理由の有無にかかわらず解雇が可能な At Will Employment で運営していますが、だからと言って、不当・不法な理由で解雇することはできません。したがって、元社員は「不当・不法な理由で解雇された」と主張します。また、時として、元社員は明確な証拠や理由がなくても元雇用者を訴えることもあります。
訴状を裁判所に提出すると、元雇用者は答弁とその証拠を提出する必要がありますが、元社員も不当・不法に解雇されたことを証明するために、Discovery(証拠開示手続)を通して多くの証拠を提出する必要があります。そのため、元雇用者のみならず、元社員にも多くの負担が生じます。
ではなぜ元社員は明確な理由もなしに元雇用者を訴えるのでしょうか?
もちろん、明確な証拠がなくても正当な理由で元雇用者を訴える場合もありますが、中には、自分を解雇した雇用者に恨みを持ち、元雇用者に苦痛を与えたいという感情的な理由がある場合や、少しでも多くの和解金を元雇用者から搾り取りたいという目的で訴える場合もあります。
一般的に、元雇用者の弁護士は時間単位で業務を行うのに対し、元社員の弁護士は成功報酬で業務を行うので、元社員には訴訟の過程で経済的な負担がありません。また、成功報酬で業務を行う元社員の弁護士は,、自分のクライアントが勝つ可能性が高いと判断した場合は、裁判に至るまで業務を行いますが、勝ち目がないと判断した場合は、Discovery の途中で雇用者に和解金の要求をします。でも、元社員の中には、勝ち目がないとわかっていても訴訟を最後まで続ける場合もあります。その場合、元社員の弁護士は最終的に弁護士費用を支払ってもらえない可能性が高くなるため、途中で撤退することもあります。
また、元雇用者が、自分の非に気づき、早めの和解を求めることがありますが、自分が正当に解雇したと確信していれば、相手から和解を求められても、自身・自社の正当性を証明するために略式判決または裁判で勝訴することを狙って訴訟を続けることもあります。
しかし、元社員には勝ち目がないと思われる場合でも、雇用者が支払う弁護士料やその他のコスト、時間がかかる上、最終判決を下すのは判事か陪審員となるため、雇用者にとってもリスクはあります。したがって、雇用者は「道義として最後まで戦うべき」と思っても、判事や陪審員の判断材料が必ずしも雇用者側の立場に立った解釈につながらないことのリスクを考慮し、訴訟の進行と対応を考える必要があります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com
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