「自分を変えたい」と思ったことはありますか?
誰でも一度はあるのではないかと思いますが、「自分を変えると良くなる」という考えは、自己否定が根底にあります。
そのため、「自分を変えること」は「自分を否定すること」になり、自己否定が引き金になって不安感が強くなったり、暗い気分になりやすくなります。
「あるがままの自分」と「あるべき自分」が同じであればあるほど精神状態が安定し(自己一致)、それらの差が大きければ大きいほど精神状態への影響が大きくなると考えられています。
例えば、「内向的な自分を変えて、もっと社交的になりたい」という願望には、「社交的であるべきなのに、自分は社交的ではない」という意味が含まれています。そう思っていると、人前に出た時に自分が社交的ではないことに意識が集中してしまい、さらに人と関わることへの不安を感じることとなります。不安な気持ちを感じるのは苦しいことなので、精一杯の努力で本当の自分(不安な気持ち)を隠そうとする人、人前に出ることを避けがちになる人、自分に「大丈夫」と言い聞かせる人など、対応はさまざまです。ですが、どの場合も、頭のどこかで自分をだましていることがわかっているので、思った程の効果がないか、その効果が持続しないことがほとんどです。
自分を変えることに焦点を当てて自己否定から始めるのではなく、自分をより良く理解することから始め、自己理解が深まると、自分が自然に変わっていくというプロセス思考が効果的です。
自己理解を深めるには
大切なポイントは3つあります。
1)本当の(ありのままの)自分を知る。
本当の自分を知ることは、実はとても難しいことです。例えば、「お兄ちゃんなんだから」と、大人に甘える機会が十分にないままに育つと、責任感や自立心が「甘えたい自分」を無意識に隠したり押さえつけたりし、甘えることに罪悪感や嫌悪感を感じることさえあります。同じように、本来は社交的な人が、社交性が裏目に出た経験をすると、社交的な部分を隠すようになり、その隠した状態が自然と普通になっていくため、自分を内向的だと思うようになる場合もあります。
今すぐに自分のことを理解するのは不可能で、その必要はありません。これまで見ないようにしてきた自分の嫌な部分を見るのは勇気がいることですが、ありのままの自分を理解し始めるだけでも、自己一致の安定した状態に一歩近づくことができます。
2)本当の(ありのままの)自分でいることをブロックしているものを特定する。
本当の(ありのままの)自分でいられないのは、能力などが原因ではありません。ほとんどの場合が、直接的・間接的な経験に基づいています。人前で話すのが苦手な人は、以前にどこかで人前で話した時に、誰も聞いてくれていなかったり、嫌な思いをした時の感情が残っていることが原因です。
その時の記憶を思い出せないことが多いので、ブロックを特定するのは簡単ではありませんが、「もしかするとこういうことがあったのかな・・・」と、仮説を立てるだけでも効果的です。
3)あるべき自分像が他人や世間の価値観で創られていることを認識する。
「こうありたい」と「こうあるべき」は異なります。「こうありたい」は自発的・内発的なのに比べ、「こうあるべき」は多発的で、他人や社会からのメッセージが大きく影響しています。
例えば、日本人の両親を持つお子さんがアメリカの学校でギャップを感じることがよくあります。それは、日本の文化では自分の意見よりも周りの空気や他人との会話の行間を読むことが期待され、アメリカの文化では自分の意見をはっきり伝えることが期待されることへの戸惑いから来ています。
戸惑いの原因は文化の違いなのですが、それが理解できないお子さんは、「自分に能力がない」「自分が悪い」「自分を受け入れてもらえない」と思い、劣等感を感じてしまいます。そのため、「あるべき自分」のメッセージ源がどこなのか知り、また、それに影響されないよう注意が必要です。
具体的には、日常における人間関係の中で、一緒にいると楽な人(自分を出しやすい人)、気を使う人(自分を出しづらい人)を特定できるようであれば、相手によって自分の感じ方が異なる特定の部分と、それに伴う感情や価値感、また、それがなぜなのかを掘り下げて客観的に考察することから始めてみてください。
すぐに理解できなくても問題ありません。「あるべき自分像」を持ち続けるのではなく、ありのままの自分に触れることが目的です。
発達年齢と自己否定的なメッセージの目安
次にご紹介するのは、発達年齢に伴って認識され、無意識に内在化されやすい自己否定的なメッセージの目安です。
生後2歳位まで:自分の存在価値に対する疑問
2歳ごろ:自分や他人への不信感
2歳から4歳ごろ:自己コントロールの欠如、周囲に対する責任感
4歳ごろ:羞恥心
4歳から5歳ごろ:罪悪感
5歳から12歳ごろ:自分の判断に対する不信感
(Kiessling, 2012)
子どもの頃の体験や経験は、認知的知識に基づく分析や理解をすることなく内在化されてしまいます。それらのメッセージが大人になっても残っている場合が多くあると、感情や身体の不快感(緊張や胸苦しさなど)になって現れます。
例えば、近所の人に挨拶した際、相手から挨拶が返ってこなかったとしましょう。それは、子どもの心の中に、言葉にならない不信感や羞恥心として残る場合があります。
成長して言葉と客観的な認知能力が発達するにつれ、異なる角度から物事を考察する視点が発達し、自己否定的なメッセージは内在化されにくくなります。なので、前述と同じ状況でも、ある程度の年齢になると「あれ?聞こえなかったのかな?機嫌が悪いのな?」と思うことができます。
でも、大人になっても子どもの頃に内在化した自己否定的なメッセージが残っていると、前述と同じ状況で、「自分が何か悪いことをしたのだろうか」とか、「自分は嫌われているのだろうか」と思ってしまいます。
子どもの頃に経験・体験したことや、それに伴った自己否定的なメッセージは覚えていないことが多いので原因を特定するのは容易ではありませんが、子どもができるだけ否定的なメッセージを内在化しないよう、家庭や学校での子どもの心のケアが大切です。
佐野圭子 Ph.D., LMHC, NCC, SAS
メンタルヘルス&キャリアカウンセリング
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