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第13回 アメリカ現地校での算数・数学教育について

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ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー
清水 楡華(しみず ゆか)さん

14640 NE 24th Street
Bellevue, WA 98007
【電話】 (425) 785-8032
【公式サイト】 ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー土曜学校
バイリンガル幼稚園BCA 現地校(英語サイト)
Willows Preparatory School ミドルスクール現地校(英語サイト)
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アメリカ現地校での算数・数学教育について見直してみたいと思います。

アメリカでは高校生の半分以上が九九を完全にマスターしていません。ということは、半分以上の生徒にとって、Algebra や Geometry を学習することは不可能です。計算機の持込み・使用は許されていますが、九九をマスターしていなければ、まず方程式を立てることが不可能です。また、先生のレベルも十分でないため悪循環が起きています。たくさんのバイリンガルの子供たちが、日本語で九九を学習しています。日本の子供たちが瞬時に掛け算の答えを出すのはアメリカ人にとってはまるで魔法のように見えるそうです。しかし一方で、「日本の子供たちは暗記だけ」とか「親がスパルタで詰め込んで覚えさせる」などという妬みにも似た評価も返ってきます。

小学生の最初の基礎学力はすべてコード(Code)の学習です。一番最初に学ぶひらがなも “あ” という文字の形を認識して音に切り替え、変換します。英語のフォニックスも含め、言語分野でのコード学習に比較し、算数・数学学習のコードはビジュアル化です。まずいろいろなものの集まりを見て、3個のリンゴ、3匹のめだか、3本の鉛筆、これらすべてに共通する要素に「3」があることに気づきます。これは、具体的な物を抽象的な 「3」に変換するということで、数えるのとは全く異なる能力です。この具体的な量から数へコード変換する力が3、4歳児に求められます。そしてユニット学習として、タイルや図に視覚化して数の合成と分解を学習していきます。

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10の合成と分解では、ユニット数を視覚化してタイルを使用し、1と9で10、2と8で10、3と7で10、4と6で10、5と5で10というように考えていきます。全体を出すのは足し算、部分を出すには引き算と概念の説明をしていくと、足し算と引き算は同じものに見えます。

掛け算においても 三つ葉のクローバーを使って3の段、自動車の車輪を使って4の段、カブトムシの足を使って6の段と言うように 数のかたまり(ユニット)で九九の概念を紹介し、カブトムシが1匹増えるごとにその足の数が6ずつ増える足し算の反復であることへと導きます。このように、単純な計算は学校と家庭で各個人のレベルに合わせて習得していきます(この時期はコード能力によって大きく左右されるため、コード能力の弱いお子さんにはゆっくり進んでもらいます)。そして学校ではクラス全体で各種の文章問題、数学的推理や図形問題を含めた応用問題を中心にその解き方と考え方を学んでいきます。

ベルビュー・チルドレンズ・アカデミーでは、英語で書かれたシンガポール Math を教材に使っていますが、最近はこれがアメリカでも随分と広まり、広まれば広まるほどアメリカナイズされて内容が簡単にされているのが残念です。

シンガポール Math では、基本の数をユニットとして問題をまず図形化し、その後で式にしていく代数学(Algebra)の基本概念を小学生のうちに習うので、中学高校の数学は簡単に理解できます。ユニットを学習した次にバー・モデルを使い、ほかの数との関連を図に視覚化し、答えになる部分を視覚のまま解いていきます(高校の代数ではxやyという記号を用います)。鶴亀算、和差算などに代表される難しい応用問題も簡単に理解できます。

ここで、小学3年生の応用問題です。「デパートで手袋とスカーフを同じ数だけ仕入れました。クリスマスセールで手袋は44組、スカーフは8枚売れました。スカーフの売れ残りは手袋の売れ残りの数の4倍になりました。手袋とスカーフを最初にいくつ仕入れたのでしょう?」小学3年生の子供たちが喜んで鉛筆を動かし始めます。スポーツをするような楽しい感覚です。

仕入れた手袋とスカーフは同じ数で2つのバー・モデルになります。手袋の売れ残りを1ユニットと考え、図のように文章題を視覚化します。問われているのは全体のバーの数です。ここで44と8の差は3つ分のユニットと等しいことが分かります。1ユニットは(44-8)/3=12。仕入れた手袋の数は12+44=56。仕入れたスカーフは12×4+8=56 と同じになります。

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文章問題の意味をバー・モデルによって視覚化し、何をユニットとして置くかによって既にこの問題の80%が解けていることになります。高校での代数学で難しいのは何をxとするかを決めることなので、この時期にこの練習問題を解くことで自然に代数学の一番大切な部分をマスターしていることになります。ベルビュー・チルドレンズ・アカデミーで使用しているこの方法で、生徒たちは数学に強く、Algebraを簡単にマスターし、ロジックに強くなり、数学の強さを武器に、レベルの高い大学に進学しています。

もともとこのシンガポール Math はシンガポールが当時の日本の算数・数学に大きく影響されてできたものですので、日本の算数・数学教育がその根底にあると言っても過言ではないと思います。コード学習とロジック学習で高い計算能力を身につけ、それを道具として応用問題を解いていくこのバー・モデル学習こそ、数学の極みではないでしょうか。

バイリンガルの子供たちが英語と日本語を両立するのと同時に、日本の算数・数学をこのシンガポール Math で身につけるのはいかがでしょう。アメリカ現地校のレベルで 「あなたのお子さんはよくできる。算数はトップレベルだ」と言われて安心するのではなく、世界を見て、世界のレベルで戦えるロジックと数学力を備えたバイリンガル教育をしていきたいですね。

掲載:2014年1月

このコラムの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。



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