ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー
清水 楡華(しみず ゆか)さん
14640 NE 24th Street
Bellevue, WA 98007
【電話】 (425) 785-8032
【公式サイト】 ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー土曜学校
バイリンガル幼稚園、BCA 現地校(英語サイト)
Willows Preparatory School ミドルスクール現地校(英語サイト)
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今日は寝付かれない。自分でも理由がわかる。1週間後に迫るジャパンフェアの最終準備に、亡き友の写真を探していたからである。思い出が蘇り、どうしても眠りにつけない。あんなに一生懸命に戦って何度も生き返ってきたのに(本当に彼は何回も生き返ってみせてくれた)、事故死という信じられない悔しい最期だった。それだけに またひょっこり姿を現してくれるような気がする。医者もさじを投げた状態から何回も1%の可能性を現実にしてみせてくれた。
彼がいたから、今のジャパンフェアがある。彼もオリジナルのメンバーで、私たち8人は何回もミーティングをした。楽しかった。富雄さんのカラオケが念仏みたいだと内緒で教えてくれた。私はそのミーティングのお陰でお酒も飲めるようになった。夏になって彼の欠席が重なり、大変な病気と闘うことになった。「楡華さん、僕も戦うからジャパンフェア続けてよ」の一言が決定打となった。
ある日、学校の仕事を終え、入院先を見舞った。夜9時のお見舞いは少しセンチメンタルで、彼独特のユーモアで見舞い客の私を元気付け笑わせてくれていたが、いつの間にか、二人とも涙がでていた。癌で夫を亡くした私と、癌と戦っている彼と、不安と苦しさと悲しさを共感した一瞬だったのかもしれない。彼は何回も生き返った。いつも茶目っ気たっぷりで、見舞い客を驚かせていた。そんな彼から、手術を受けて治療を続けるか続けないか迷っているとの相談のメールが届いた時は、どう返事をして良いかわからなかった。私の返事のメールは「ジャパンフェアのほうは続けてがんばっているから、早く良くなってミーティングに来てください」だった。彼は約束を守り、最期となった2018年5月21日のミーティングまでいつも参加してくれた。以前と同じで楽しかった。仲間と笑い会う彼の姿が写真に撮ってあった。偶然か必然か、その5月21日のミーティングはみんなが参加していて、彼の最期の日でもあった。
独り者の彼にとって シアトルのコミュ二テイは特別なもの。どんなにお友達と楽しい夜宴を過ごしても、家に帰ると一人。私も同じ。私たちはこのコミュ二テイに生かされていることに感謝し大切に育てたいという思いを共有していた。未来へ託したいと願った。
彼は1日1日を生きてきた。目前の現実が喜びであろうと、悲しみや絶望であろうと、ただ、今、置かれた一瞬を精一杯に生きてきた。日々是好日として戦ってきた。
土曜学校で「日々是好日」を中高部の国語科で取り上げたことがある。この語は中国の唐未から活躍された大禅匠、雲門文偃(うんもんぶんえん)禅師の言葉である。茶道の「一期一会」と同じく禅語のひとつである。今までかなり軽く指導していたような気がする。彼の生きた最期の3年間ほど、「日々是好日」の意味を明確にしたものは他には見当たらない。そして誰もが耳を疑った事故が起こり、彼は、自分だけ約束を果たして逝ってしまった。
3年目、3回目のジャパンフェアがすぐそこまで来ている。みんなに来てもらいたい、参加してもらいたい。年齢や世代を超えて、人種も、職種も超えて、日本の文化を通して地域全体が一つになって未来へ伸びてほしい。みんなが繋がってほしい。未来への大切な人材の育成である教育に関係する者の一人として切に願う。21世紀に生きる子供たちには、何を手に入れるかではなく、何を残すか、何を与えられるかを考えてほしい。亡くなった木家下真冶氏は確実に私たちにジャパンフェアを残してくれた。「日々是好日」の深い意味を教えてくれた。ジャパンフェアで彼のスピリットが地上に降りてきてくれるのを楽しみにして、眠りに付こう。
掲載:2018年7月