ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん
Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP
Nadeshiko Women’s Clinic
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不妊症の専門家のところに行った結果、どんな形で卒業していく人たちがいるのか、いくつか例を挙げてみます。
妊娠を目的に不妊症の専門家のところに行っても、妊娠して卒業する人ばかりではありません。子供のない人生を選ぶ人、養子を迎えることによって家族を完成させる人、他人の精子や卵子を使って妊娠・出産を経験して自分の子として育てる人、さらに特殊なケースでは、他人の身体に自分の受精卵を植えて産んでもらう人、などがいます。
不妊症の専門家の診察では、まず、妊娠する能力に影響するような全身疾患や既往歴がないかの問診があります。それから、女性側の主な検査として、卵巣機能検査(超音波、血液検査)、構造検査(卵管通気検査、子宮内腔造影検査)があります。男性側には精液検査(数や動きを調べる、卵子を受精させる能力を調べる、感染症を調べる)があります。
検査の結果、まったく問題がなかった場合、あと1年ぐらいタイミングを合わせて自然に試してみましょうというアドバイスをもらい、数ヶ月後に自然に妊娠するカップルもいます。
卵管が少し詰まっていた人の場合、卵管通気検査をした直後に妊娠することもあります。
少し排卵しにくいパターンの人は、排卵促進剤を使い、超音波で排卵の日を確定することもあります。排卵の直前に自然な性交や人工授精で妊娠を試みます。それだけでうまく妊娠するカップルもよくあります。
ここまでの検査で、男性側に精子がなかったり、女性の卵巣に卵を作る能力がなかったりすることが判明し、子供のない人生を送る決断をする人もいます。あるいは、自分に卵巣機能がないために、他の人の卵子を使って妊娠することを選ぶ人もいます。
何回も人工授精を繰り返したけれど妊娠しない、卵巣機能が落ちてきていて自然に妊娠するのを待つ時間がない、精子に卵子を受精させる能力がない、他人の卵子を使って妊娠したい、などの場合には、体外受精を行います。
体外受精のプロセスは、まず、卵巣を休め、体内で自然に卵巣に働きかけるホルモンをすべてブロックしていまいます。それから、人工的にホルモン注射で卵巣を刺激していきます。通常、卵巣は1ヶ月に1個だけ排卵しますが、人工的な刺激で卵を15個から25個ぐらい作らせます。そして、麻酔をし、針でその卵子を取り出し、配偶者の精子(あるいは、精子バンクから購入した精子)と受精させ、3日から5日ぐらい、試験管の中で育てます。それを、細い管で子宮の中に戻して、自然に着床するのを待ちます。
その過程で、卵巣がホルモン刺激に反応しないため、卵が採取できないこともあります。採取した卵子を精子がうまく受精させることができず、受精卵ができないこともあります。精子に受精能力が無い場合は、ICSI(Intra Cytoplasmic Sperm Injection)といって、精子を一匹だけ取って、ガラスのチューブで卵子に挿入する顕微受精をすることもあります。また、受精卵がうまく3日目まで育たず、子宮に植えることができない場合もあります。受精卵の質が悪く、子宮内に5個挿入しても、ひとつも着床して成長することができない場合もあります。
それでも、体外受精の成功率はかなり高く、年齢や不妊の原因によりますが、60%から80%ぐらいは1年以内に妊娠します。以前は非常に特殊だった体外受精ですが、近年、成功率が上がってきたことにより利用率が上がり、病院によっては、出産する人の5%から10%ぐらいが体外受精による妊娠になってきています。
(2010年2月)