ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん
Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP
Nadeshiko Women’s Clinic
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母乳の量が足りないと思っていても、実際には足りていることがよくあります。小児科医や助産師の母乳外来や、ラクテーション・コンサルタントによく診てもらって、本当に足りないと判断されたら、母乳を増やすための努力をしてみましょう。
まず、赤ちゃんがしっかり乳首をくわえているかどうか、確認しましょう。舌が乳首の下側にしっかり入っているかどうか、下唇が巻き込まれていないかどうか、確認しましょう。赤ちゃんの舌がうまく乳首をとらえていないようなら、舌小帯が短すぎないかどうか、診てもらいましょう。舌小帯が短くても、うまく飲めていれば治療の必要はありません。舌小帯が短いために母乳がうまく飲めていない場合は、「搾ればたくさん出るのに、ちっとも飲めていない」とか、「授乳の間中、ずっと乳首が痛い」というような症状が出ます。
次に、授乳のたびに手で乳房を圧迫して、赤ちゃんが吸う力とお母さんが手で押す力で、母乳がもっと流れるようにしましょう。母乳は出た分だけまた作られるので、毎回しっかり飲んでもらうと、母乳の生産量が増えてきます。しっかり飲めているかどうかを見るためには、赤ちゃんのあごが大きく動いているかどうかを確認しましょう。しゃぶっているだけのときは、赤ちゃんのあごはほとんど動きませんが、母乳がたくさん口の中に流れ込んでいる時は、赤ちゃんのあごが大きく下に動きます。
赤ちゃんの肌がお母さんの肌にさわることによって母乳が増えてくるので、オムツだけにした赤ちゃんを、自分の肌に直接つけて一日過ごしましょう。直接肌につけていると、赤ちゃんの消化の様子、睡眠覚醒のリズム、おなかがすいてきたという兆候などが敏感に感じられて、お母さんと赤ちゃんのリズムが合ってきます。
母乳は血液をもとにして作られます。母乳を増やすためには、乳房に刺激を与えて、血流量をふやしましょう。熱めのシャワーを乳房にあてながら、少し前かがみになって、乳房を前後左右に大きく動かしましょう。乳房をもむのではなく、振りまわす感じです。また、赤ちゃんのオムツを使って、授乳の前に、乳房の温湿布をするのも役立ちます。手をようやく入れられるような熱いお湯をオムツの中に少しずつそそぐと、お湯が吸収されてオムツが膨らんできます。こうして作った温湿布は、長い間高い温度を保つことができます。
また、乳房や乳頭への刺激でも増えます。授乳だけの刺激では十分でない場合、搾乳機を使って乳房に刺激を与えます。これは、お乳を搾って集めることが目的ではなく、乳房に刺激を与えることが目的なので、母乳が搾れても搾れなくても、10分ほどでやめましょう。長時間搾乳するよりも、短時間で頻繁に搾乳する方が効果があります。
搾乳機だけでなく、手搾りを追加すると、母乳の生産量はさらに増えます。片手で乳房を少し持ち上げて胸の中心の方に寄せる感じで支え、もうひとつの手で搾ります。乳首だけを引っ張っても出ないので、乳輪の外側から乳房の中心にむけて押しながら搾ります。2本指でつまむように搾っても良いですし、5本の指を全部使って周りから中心に刺激を与えるようなやり方でも良いです。何回か実験してみると、どのあたりを押したら一番よく出るか、というコツがわかってきます。手搾りも、長い間続けるのではなく、10分程度でやめましょう。また、一回の搾乳のあいだも、右をちょっと搾乳して、指が疲れたら左を搾乳して、また右に戻って、というやり方が良いでしょう。
食事と睡眠は大切です。授乳以外の家事は全部他の人にまかせ、ひたすら食べて寝て母乳をあげて、というサイクルにしましょう。食べ物は温かい汁物が良いようです。消化の良いタンパク質がたくさん入っていて、身体が温まるものが良いでしょう。母乳をあげていると喉が渇くので、こまめに水分を補給しましょう。
それでも足りない場合には、母乳を増やすサプリメントもあります。一番よく使われるハーブのサプリは、フェニュグリーク(Fenugreek)です。いろいろなタイプがありますが、最も一般的なのが500mg入りのカプセルです。一回に3カプセルを一日 4回ぐらい飲みます。母乳の増え方を見ながら、だんだん量を減らしていきます。
母乳を増やす薬もあります。他の方法をすべて使っても、どうしても量が足りない場合には、主治医や助産師に相談して処方してもらいましょう。この薬が効かない人が3人にひとりぐらいいるので、1週間飲んでも量が増える様子がなければ、一回薬をやめてみましょう。やめた途端に急に量が減ったら、薬の効き目があったということなので、また飲み始めましょう。量や飲み方は、処方してくれる人に聞きましょう。
(2014年8月)