ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん
Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP
【メール】 sachiko.oshio@gmail.com
【公式サイト】 www.sachikooshiocnm.com
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アメリカでは、妊娠・出産にかかる費用は、産科医(あるいは助産師)、入院した病院(入院費、手術室使用料、新生児室看護料)、血液検査室、病理検査室、放射線科医師、麻酔科医師など、いろいろなところから請求書が来るので、非常にわかりにくくなっています。ここでは、2011年の例で説明してみます。(なお、グループヘルス、ワシントン大学大学病院などは、すべての会計が一括して行われますので、この説明はあてはまりません。)
妊娠出産管理費用:OB Global Fee
産科医、あるいは助産師の妊娠出産管理費用は、外来(クリニック)から一括請求になる場合がほとんどで、初診、妊婦検診、出産、産後検診までひととおり含まれたパッケージになっています。保険会社とそのクリニックとの契約内容によって、2,800ドルから3,600ドルぐらいまで、パッケージの総額に差があります。もともとそのクリニックの患者ではなく、妊娠して初めてクリニックを訪れた場合は初診だけ別扱いになり、120ドルから200ドルぐらいの初診料を別に請求される場合もあります。このパッケージの金額はクリニックごとに決まっており、同じクリニック内なら、助産師を選んでも産科医を選んでも、同じ金額になります。
妊娠4ヶ月ぐらいまでに、自己負担分がいくらになるかについて産科医や助産師のクリニックから連絡があるのが普通です。自己負担分は妊娠8ヶ月ぐらいまでに支払いを済ませておくよう、クリニックから分割で請求があると思います。
会社から出産前後の費用を別々に請求して欲しいと言われることもありますが、アメリカの保険請求では出産前後の費用は分割されていません。自費の場合、クリニックに特別に頼むと、産前3:産後4ぐらいの割合で分割して請求書を作成してくれると思います。
検査費用:Lab Fee
血液検査は、妊娠中に2回行われるのが普通です。遺伝検査をすると、さらに1回か2回、血液検査をすることになります。遺伝検査については、別の項で説明することにします。
一回目の検査には、血液型(ABO、Rh)、血液型抗体、血球検査、風疹の抗体価、B 型肝炎の抗体価、淋病の抗体価が一般的に含まれています。同時に、尿一般検査、尿培養も行われます。クラミジアや梅毒の検査がこれに含まれることもあります。検査費用総額はだいたい300ドルから500ドルぐらいになります。一回血液検査をするごとに、検査費用のほかに、採血技術料として20ドルほど請求されます。
子宮ガンの検査を過去3年以内に受けていない場合は、パップスメアという検査もします。これは50ドルから75ドルぐらいです。HPV というウイルスの検査を一緒にすると、子宮ガンの検査の精度が高まるのですが、それを加えると追加料金が150ドルから200ドルぐらいかかります。子宮ガンの検査は血液検査の会社とは別の場合が多く、病理学検査を扱う会社から請求が来るのが普通です。
2回目の血液検査では、妊娠28週ぐらいの時に貧血と妊娠糖尿病の検査をします。これは、80ドルから100ドルぐらいです。
また、妊娠36週ぐらいに、膣や直腸にB型溶連菌が常在するかどうかの培養検査が行われます。費用は30ドルから40ドルぐらいです。
検査室から請求書が直接来たら、保険に加入している場合は、保険の情報を記入して送り返せば検査室が保険会社に直接請求してくれます。そして、保険会社が支払わなかった分について、あらためて本人に請求が来ます。
超音波検査:Ultrasound cost
保険会社の契約内容によって微妙に異なりますが、妊娠中に一回は超音波検査費用が支払われるのが普通です。だいたい妊娠20週ぐらいに胎児の成長状態を測り、胎児や母体に異常がないか調べる超音波を行います。
最終月経の開始日が不明だったり、月経周期が不順で予定日が確定できない場合には、妊娠初期にも超音波検査を行います。ところが、これを医療上の必要性によって余分に超音波をしたとみなして、2回分の超音波検査を支払ってくれる保険会社もあれば、初期の超音波検査をしたから20週の超音波検査は支払わないという保険会社もあるので、気をつけないといけません。
超音波検査費には非常に大きな幅があり、安いところでは250ドルから300ドルぐらいですが、高いところでは超音波検査費・技術費・施設使用料・超音波画像解読専門家費用などを合計して一回に1000ドルから1700ドルぐらいかかるところもあります。自分で支払わなければいけない場合は、その旨を医師や助産師に説明し、指示された超音波検査室ではなく、もっと安いところを探して検査を受けることも可能です。
胎児の発育が遅れていたり、異常が見つかった場合には、専門的な超音波を何回も受けないといけなくなるので、超音波検査だけで、何千ドルもかかることがあります。
超音波検査は医師や助産師が超音波技師を雇って自分のクリニック内で行っていることもあります。その場合には、同じクリニックから請求書が来ます。しかし、ほとんどの場合は超音波専門のクリニックに行って検査を受けるので、そちらから請求書が来ることになります。超音波検査を行う施設と超音波の結果を解読する医師とが別の会社に所属していて、検査費用と放射線科の医師による画像解読費用が別々の会社から請求されることもあります。
入院費:Hospital admission/Operation
オープン・システムの病院が多いので、外来と入院施設はまったく別の会計になります。医師や助産師は自分のクリニックで外来を行い、提携している病院に自分の患者を入院させて、出産・手術などを扱います。
入院費は、本人と赤ちゃんと別に請求が来るのが普通です。本人の部屋代は3,000ドルぐらいですが、点滴・薬・検査・陣痛・麻酔・分娩時の看護料8,000ドルなどを足して、合計で10,000ぐらいになります。なお、麻酔をしなければ、費用を大幅に抑えられます。
赤ちゃんの場合は、部屋代(と言っても、お母さんと相部屋ですが)が1,200ドルぐらい、検査・薬などを合わせて1,500ドルぐらいになります。呼吸がうまくできず、新生児特別看護室に入ったりすると、数時間でも3,000ドル以上の費用がかかります。
麻酔科:Anesthesiologist
エピドゥラル麻酔をした場合、麻酔科の医師の所属する会社から請求書が来ます。だいたい2,000ドルから2,500ドルぐらいになります。
小児科医:Pediatrician
入院中に小児科の医師が赤ちゃんを診察し、異常がないことを確認したら、退院となります。その診察料が一回に120から150ドルぐらいかかります。2日入院していれば、出産から24時間以内の診察と、退院時の診察の費用が別にかかります。出産時に赤ちゃんの様子が悪いことが懸念となり、新生児専門医が出産に立ち会うと、400から500ドルぐらいかかります。
赤ちゃんの聴力検査
入院中に、シアトル子供病院から派遣された新生児聴力検査の担当者が、赤ちゃんの耳が聞こえるかどうか検査をしてくれるのが普通です。ほとんどの保険はその費用を支払ってくれますが、中には新生児期の聴力検査は正確ではないとして費用を払わない保険会社もあります。その場合、230ドルから250ドルぐらいの費用がかかります。
自費割引
保険に加入していなかったり、保険が妊娠に関する費用を払ってくれなかったり、もともと自費で支払う(一旦自分で支払い、その後、会社が費用を払い戻してくれる場合も自費扱いになります)場合は、20%から30%の割引があるのが普通です。クリニックや検査室や病院からの請求が割り引きになっていない場合は、自分で交渉してみれば、たいてい割り引きをしてもらえます。
掲載:2012年3月