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シアトルでの妊娠出産ガイド その3 「新しい遺伝検査」

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ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん

Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP

Nadeshiko Women’s Clinic

【メール】 info@nadeshikoclinic.com
【公式サイト】 www.nadeshikoclinic.com
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超音波妊娠中に、胎児にダウン症などの染色体異常がないかどうか調べる出生前診断に、新しい方法が加わりました。今回は、従来の方法も含めて、出生前診断の選択肢についてご説明します。

よく知られているように、ダウン症などの染色体異常の発生率は母体の加齢によって増えてきます。ダウン症にかぎって見れば、25歳では0.1%ぐらい、35歳ぐらいから0.3%ぐらいになり、40歳になると1%ぐらいの率になります。1%という率を高いと見るか、低いと見るかは、その人の考え方次第ですが、40歳でもダウン症ではない子供が生まれる確率の方がずっと高いことは事実です。ヒトの染色体は2対ずつの普通の染色体が44本と、xy あるいは xx の性染色体が合計46本あります。ダウン症は21番目の染色体が2本(一対)のかわりに3本あるという異常です。ダウン症の次に多いのが、エドワーズ症候群(18番目の染色体が3本ある異常=18 trisomy)と、バトー症候群(13番目の染色体が3本ある異常=13 trisomy)です。それ以外の染色体異常もありますが、かなり稀です。

検査には、大きく分けて、スクリーニング検査と確定診断検査があります。確定診断検査は、はっきりと「ダウン症です」、あるいは、「ダウン症ではありません」という診断が出る検査で、羊水検査や絨毛採取などがこれに含まれます。スクリーニング検査では、確率が高い、低い、という結果が出るだけで、確実な診断は出ません。

今回のコラムではスクリーニング検査について、次回のコラムでは確定診断検査についてご説明します。

まず、従来の方法について説明してみます。

母体血清マーカー 検査(Quad screen)

これは、妊娠12週前後に妊婦の血液中にあるホルモンや化学物質の量をはかり、その値を同じ妊娠週数の妊婦の平均値と比べて、ダウン症の確率を推定する検査です。ダウン症などの染色体異常のある胎児は、普通の胎児と比べて胎児自身や胎盤や卵巣が作るホルモンや化学物質の量が少し低かったり高かったりするため、計測値を推定計算式にかけることによって、確率の推定ができる仕組みになっています。利点としては、簡単にできること、流産を起こす危険がないこと、などがありますが、欠点としては、擬陽性、擬陰性の確率が高いことが挙げられます。

血清マーカーの検査で異常なスクリーニング結果が出た人のうち、羊水検査で確定診断をしてみると、およそ90%の人は正常な胎児であることがわかっています。この検査では、5%ぐらいの人が陽性という結果になるのですが、先に説明したように、35歳でも本当にダウン症の起こる確率は0.3%なので、4.7%の人は無駄な心配をすることになります。

逆に、「正常な結果でした」と言われた場合でも、ダウン症を見逃している可能性もあります。ダウン症の子のみに関して誕生後に見てみると、85%ぐらいはスクリーニングでひっかかっていますが、15%ぐらいはスクリーニングでは正常と言われています。15%という数字を見て驚く人も多いと思いますが、最初の発症率を見てみてください。35歳の人が検査をした場合、0.3%の可能性のある異常のうちの15%を見逃すということは、0.045%という率になりますので、見逃す絶対数はかなり少ないことがわかります。

超音波 NT 検査 (NT ultrasound)

胎児の頚の後ろのむくみを測る検査です。この検査ができるのは、特別な訓練を経て認定を受けた技師のみで、妊娠11週から14週の間に行うことができます。頚の後ろのむくみを測った値が、その週数の平均値と比べて大きい場合は、なんらかの染色体異常があったり、重篤な心臓の異常を持っていたりする可能性が高くなります。

シアトルでは、母体血清マーカーテストと超音波 NT 検査を組み合わせた、Combined Screen という検査法や、12週に加えて15週の血液検査を行って、超音波 NT 検査を合わせた結果を使う Integrated Screen という検査法が一般的です。初診時にすでに14週をすぎていた場合や、保険が初期の超音波を支払ってくれない場合などは、超音波と組み合わせないで、血清マーカーだけの検査を行うこともあります。

セルフリー DNA

では、新しい遺伝検査についてご説明します。細胞は常に新陳代謝を繰り返して入れ替わっています。胎児の細胞も作られては壊され、また作られて、成長しています。壊れた細胞の核のなかから、DNA が母体の血液中に紛れ込みます。最近の遺伝科学の発達で、DNA のかけらが何番目の染色体に由来するものなのかを判定することができます。したがって、母体の血液中の染色体の割合を調べ、他の染色体由来の DNA と比べて、21番目の染色体由来の DNA が異常に多ければ、ダウン症の確率が高い、と判定されます。こうした仕組みを利用した検査がセルフリー DNA という検査で、会社によって MaterniT21 Test、Verifi Test、Harmony Test という名前がつけられています。

この検査は血清マーカー検査と同じように、妊婦の血液を取るだけの検査なので、胎児への影響はありません。妊娠の10週ごろから検査ができますが、あまり早く検査すると、十分な DNA が採取できず、結果が判定できないこともあります。採血した血液は州外の本部まで送られるので、最終的な結果がクリニックに送られてくるまでに、だいたい10日から2週間ぐらいかかります。

一応スクリーニング検査なので、100%確実な診断ではありませんが、血清マーカーの精度と比べると格段に精度が高く、この検査で21、13、18番目の染色体由来の DNA の数が異常に多い、という結果が出た場合は、99.9%ほどの確率で本当の異常があると言われます。ただし、セルフリー DNA の検査では、ダウン症、18 Trisomy、13 Trisomy の3種類に限って DNA の測定をしているため、他のもっと稀な染色体異常がある場合には見逃されてしまいます。

アメリカ産科学会は現在のところ、出産予定日に35歳以上になる妊婦、染色体異常の妊娠を以前に経験した妊婦、初期の超音波で明らかな異常が認められた妊婦に限って検査を行うよう指導しています。まだ新しい検査なので、保険会社が支払ってくれるかどうかは直接問い合わせないとはっきりしません。しかし、検査会社は自社の検査を使ってもらうため、保険のない人や、保険会社が支払いを拒否した場合などの状況に対応する、さまざまな割引を提供しています。割引率や条件は頻繁に変わる可能性があるので、保険会社に直接問い合わせる必要がある場合が多いです。

なお、35歳以上でなくても、ハイリスクの妊婦でなくても、希望すればこの検査を受けることができます。ただし、条件外の妊婦が検査を希望する場合は、保険が支払ってくれない可能性が高く、全額自費ではらわなくてはならない可能性が高くなります。$2500から $2800ぐらいかかる可能性もあります。

高額なテストなのですが、血清マーカーで擬陽性がたくさん出て、羊水検査を不必要に行う費用を考えると、結果的に妊婦一人あたりの費用は少なくなる計算になります。したがって、1-2年のうちには、出生前遺伝検査と言えばこの検査になるのではないか、と予測されます。

(2013年4月)

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