ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん
Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP
Nadeshiko Women’s Clinic
なでしこクリニック(日本語による産婦人科外来)
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大人の30-40%が腸内の常在菌として持っているB型溶連菌。通常ならほとんど病気を起こさない菌ですが、お産の前後にお母さんや赤ちゃんの健康に影響を与えることがあります。たとえば、妊娠初期の尿の培養で一定の数以上の B 型溶連菌が認められても治療せずに放っておくと、妊娠中に膀胱炎や腎盂腎炎などを引き起こすことがあります。また、妊娠の後期に膣内のB型溶連菌の数が多いと、早期破水や早産の原因になることもあります。陣痛が始まってから高熱が出て帝王切開になることもあります。一番心配されるのが、お産の時に赤ちゃんに感染し、新生児に敗血症、肺炎、髄膜炎などを引き起こすことです。
妊娠中の検査と治療
妊娠中に、B 型溶連菌を常在菌として持っているかどうかを調べる検査が行われます。一回目は妊娠初期の尿培養検査で、2回目は35から37週ごろに行う膣と肛門の検体培養検査です。いつ、どの手段で検査し、どういう状態の時に治療しなければいけないかということは、CDC(米国疾病予防管理センター)によって、細かく決められています。一般的に、感染症がすでに起こっている場合は妊娠中にも治療を行ないますが、保菌しているだけの場合には、出産時まで治療しません。少し複雑なのですが、下記に説明してみましょう。
初期の尿の培養結果で、B 型溶連菌の数が一定の数を超える場合は、アンピシリンという抗生物質1週間ほど飲んで治療します。妊娠初期に抗生物質を飲むことには抵抗があるという人が多いのですが、この薬はかなり昔から使われており、赤ちゃんに奇形を起こすことがないということがわかっています。逆に、治療しておかないと膀胱炎や腎盂腎炎を引き起こし、流産の原因になる可能性があります。
尿中に見つかった細菌が一定の数まで達しない場合は、検査結果報告書には記載されないことが多いのですが、妊娠中の尿の培養の場合にほんの少量でも B 型溶連菌が見つかったら、報告することになっています。なぜかと言うと、普通は B 型溶連菌が腸内に存在していても尿中にまでは認められないので、尿の培養で陽性だったということは、腸内や膣内にかなりの量で菌が存在することを意味するからです。
尿検査と違って、膣内の B 型溶連菌は、最初に陽性でも途中から陰性になったり、たまに、最初に陰性だったのに後期には陽性になったりします。したがって、検査は遅い方が出産時の状況を正確に予測てきるのですが、38-40週まで待っていると検査の前に生まれてしまう可能性が高くなるので、35-37週の間に検査を行います。
出産時に治療が必要な場合
陣痛が始まって入院すると、新生児にB型溶連菌感染症を起こすリスクの高い人に治療を行います。どういう人がリスクが高いかというと、主に下記の4つの場合があります。(細かい例外や、未熟児、帝王切開の場合などの特殊な場合については、ここでは説明を省きます)
- 経産婦で、上の子が新生児の時に B 型溶連菌感染症になった既往のある人
- 妊娠初期の尿の培養で B 型溶連菌が見つかった人
- 妊娠後期の膣・肛門の培養でB型溶連菌が見つかった人
- B型溶連菌の検査の前に陣痛が始まってしまった人
治療法
治療はペニシリンの点滴で行われます。この菌には、ペニシリンがとてもよく効きます。陣痛が始まって入院すると、赤ちゃんが生まれるまで、4時間ごとに産婦さんにペニシリンの点滴をします。ペニシリンの投与開始から4時間たつと、新生児がB型溶連菌感染症にかかるのを十分防ぐことができるとされています。ペニシリンにアレルギーのある場合は他の抗生物質を使いますが、耐性がある場合が多いのが問題です。ペニシリンにアレルギーのある人の場合は、培養の時にどの薬に耐性があって、どの薬が効くのかをテストしておき、最適な治療薬を選択します。
新生児 B 型溶連菌感染症の症状
新生児の B 型溶連菌の感染症は、出産時にすでに発症していたり、出生後数時間から1週間以内に発症する早発型と、1週間を過ぎてから発症する遅発型があります。症状としては、発熱、お乳の飲みが悪くなる、泣いてばかりいるか眠ってばかりいる、呼吸が苦しくなる、チアノーゼを起こして皮膚の色が青黒がかってくる、などがあります。新生児が B 型溶連菌感染症になる確率は、抗生物質で治療しないで生まれてしまった場合には200人に1人ぐらい、出産時に4時間以上治療をした場合には4000人に1人ぐらいとされています。
日常生活上の注意
母親が常在菌としての B 型溶連菌に対する抗体を十分作っていれば、赤ちゃんもその抗体で感染症からある程度守られます。十分な抗体を作るためには、睡眠と栄養に気を付けて免疫力を高め、妊娠中を健康に過ごすことが大切です。また、科学的に証明されてはいませんが、膣内に良い菌を増やせば B 型溶連菌が減るという理屈で、乳酸菌などのプロバイオティックのサプリメントを摂取するよう勧められることもあります。
(2014年9月)