ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん
Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP
Nadeshiko Women’s Clinic
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「妊娠中に旅行をして良いでしょうか」という質問をよく受けます。もちろん、臨月に入ってしまえば遠出は薦められませんし、流産・出血・早産・妊娠中毒症などの危険があると言われている場合には旅行はできません。それ以外の場合は、原則的には旅行をしても大丈夫です。ただし、旅行というのは、普段と違う場所に行き、普段と違うことをするので、ストレスも多くなりますし、感染症にかかりやすくなり、事故の可能性も少し高くなります。そこで、妊娠中の旅行を安全で楽しいものにするための注意事項をいくつかまとめてみました。
予防接種と感染症
インフルエンザのはやる時期には、予防接種を受けてから行きましょう。他の予防接種は一般的に妊婦さんは避けた方が良いため、中南米やアフリカなど、予防接種を受けないと行けないような場所には、できるだけ行かないことにしましょう。旅先では生ものや生水は避けましょう。日本に旅行する場合、「自分の国だから」と安心しがちですが、アメリカから久しぶりに帰ると免疫が無いため、およそ4割の人が日本についてから1週間以内に下痢を経験する、という報告もあります。
服装
身体を締め付けない、楽な服装にしましょう。妊娠初期のつわりの時期には、むかむかする胃を圧迫するような服装は避けましょう。後期になったら、座ったときに楽なように、ウエストを緩めることができる服装にしましょう。
ジーンズなど、きつい服を着て座っていると、足からの血の戻りが悪くなって、足のむくみがひどくなったり、静脈瘤の原因になったりします。もし、あらかじめ足の静脈瘤があれば、旅行中は、座ったままだったり、立ったままだったりする時間が増えるため、悪化することがあります。処方箋で買うことのできる、圧迫ストッキングを履いていきましょう。また、代えを2本ぐらい持っていくと、旅行先で洗濯が思うようにできない時でも大丈夫です。
暑い国に行ったり、ビーチやプールで泳ぐ機会がある場合には、カンジダ膣炎になりやすいので、コットンの下着で通気が良い状態にし、ジーパンなどの厚地のものは避けるようにしましょう。また、泳いだ後には、いつまでも水着を着ていないで、すぐにシャワーをあびて着替えるようにしましょう。
靴
妊娠後期の旅行では、旅先でなれない場所で、足元が見えなくない上に、疲れがたまるとバランスが悪くなり、転ぶ事故が多くなります。ヒールは避けて、滑らない安全な靴を履いていきましょう。ただし、旅行用に新しい靴を買うとかえって足を痛めるので、慣れた靴にしましょう。
飛行機の旅行の場合、気圧が低くて、しかも、じっとしていることが多いので、足がむくみます。むくんだ足でも履くことができるよう、大きさが調整できる靴を履いていくと良いかもしれません。
エコノミー症候群
脱水気味で血が濃くなり、じっと長いこと同じ姿勢で座っていると、足の血が停滞し、血栓を作ってしまいます。それがエコノミー症候群とか、ロングフライト症候群と呼ばれるものです。普通は日本人には少ない病気ですが、妊娠中には血が固まりやすくなっていて、しかも脱水になりやすいので、妊娠中の旅行の時には注意が必要です。
エコノミー症候群を防ぐためには、まず、水分をたくさんとって、脱水症にならないようにすることです。飛行機内というのはとても乾燥しているので、セキュリティ・チェックを通った後にペットボトルを2本ほど買って持ち込みましょう。それを飲んでしまったら、スチュワーデスに頼むと、水を入れてくれます。水を飲むと、必然的にトイレに行く回数が増えるので、足の運動になり、血栓症を予防することができます。座ったままで、足首の屈伸や回転運動をするのも良いのですが、妊婦の場合、大腿とお腹の間で血管が圧迫されて血の戻りが悪くなっているので、立ち上がってストレッチをするのが良いでしょう。
血栓症は、飛行機だけでなく、車やバスの旅行でも起こることがあります。車を運転して旅行に行く場合には、水分の補給に気をつけ、1時間ごとにトイレ・ストレッチ休憩をとりましょう。
食べ物
外食が多くなると、体重が増えすぎたり、繊維質がすくなくて便秘になったりする可能性があります。できるだけ普段と同じような食事ができるよう、種類を選んで賢く外食しましょう。
つわりの間は、お腹が空きすぎたり、食べ過ぎたりすると、吐き気がしたり吐いたりするので、ちょっとしたスナックをいつも持ち歩きましょう。また、妊娠中期以降になると、胎児が使ってしまって血糖値が下がってしまうことも多いので、この場合もスナックを持ち歩くと役に立ちます。
荷物
妊娠中には関節がゆるくなっており、後期になるとお腹が重くなって、あまり重い荷物はもてませんし、危険です。できるだけ荷物は少なくし、身軽に旅行しましょう。
緊急時の対応
旅先で早産とか、出血などの異常が起こった時、どう対応するのかも考えておきましょう。旅行の前に、主治医から医療記録のコピーをもらっておくのが良いでしょう。日本の母子手帳にも基本的な情報が書いてあるので、役にたちます。知らない土地に行く場合には、緊急時に適切な医療がうけられる病院があるのかどうか、調べておくと安心です。
旅行保険は通常、妊娠の異常については支払ってくれません。ご自分の健康保険が旅先での病気や怪我にどう対応してくれるのか、調べておきましょう。
緊急連絡先を身につけていましょう。「この人に連絡さえつけば、後は、家族にも職場にも連絡してもらえる」という人を選び、緊急連絡先に指定しておきます。また、自分の携帯電話に ICE という名前で緊急連絡先を入れておきましょう。ICE とは、”In Case of Emergency” の略で、救急隊員などは誰が緊急連絡先かを調べる時に、真っ先に携帯電話の ICE の項をさがします。
ストレス
妊娠していると、普段よりも疲れやすく、思うように動き回ることができないものです。できるだけゆったりした日程にし、ストレスがたまらないような旅にしましょう。
(2005年11月)