ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん
Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP
Nadeshiko Women’s Clinic
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レイプの被害を受けたら、その場で警察を呼ぶか、その場からすぐに救急室(Emergency Room: ER) に行くことが大切です。レイプを受けると、自分が穢れたような気がして、シャワーを浴び、服を全部着替え、一晩ゆっくり考えて落ち着いてからどうするか考えよう、と思う傾向がありますが、それでは犯罪を証明する証拠が失われてしまいます。
警察が来ると、その場で事情を聞かれ、現場検証と犯罪捜査が始まります。被害者の状態によっては、その場で救急車で病院に行くこともありますし、事情を詳しく説明してから救急室に行くこともあります。
救急室に行くときは、できれば、信頼できる友達や家族に一緒に行ってもらうのが良いでしょう。被害にあった後は、精神的にとても動揺していますし、判断力が落ち、言われたことも覚えていない、という状況になりがちです。ストレスの中でもはっきり状況を説明できるよう、一緒に行ってくれる人にサポートしてもらい、言われたことや検査の内容などを忘れないよう、その人にメモを取っておいてもらいましょう。何回も同じ説明を繰り返さないといけないので、記憶が鮮明なうちに、簡潔な事実の記録を作っておき、それを参照しながら説明するのも役立ちます。
救急室で診てもらう目的はいくつかあります。まず、ケガの有無を確かめます。レイプは単なる性行為だけでなく、暴力を伴う場合が多いので、全身を診察してケガがあればその手当をします。本人が警察に訴えるつもりなら、専門のトレーニングを受けた人が救急室で証拠収集をします。その際に、膣内の液体を綿棒にしみこませ、精液がついているかどうかを調べ、また、精子、あるいは酸性フォスファターゼという精液中の物質がないか調べます。恥毛を紙の上で梳かし、加害者の毛が混じっていた場合、それも証拠となります。下着には精液がついている可能性が高いので、証拠として保存します。また、レイプの被害者の約2%ほどが妊娠をすると言われていますので、妊娠の可能性を減らすため、事後ピルが処方されます。妊娠した場合は中絶を選ぶ人が多いのですが、中には妊娠を継続して養子に出す人や自分で育てる人もいます。性病をうつされる可能性もかなり高いので、うつされたと仮定して治療を始めることが多いようです。エイズの可能性についても心配なので、エイズ発症を防ぐ注射も一緒にする場合もあります。
警察に知らせるかどうか、加害者がわかったときに起訴するかどうかは、本人が決めるべきことです。残念なことに、レイプの起訴はかなりストレスの強いプロセスで、必ずしも成功するとは限りません。多くの場合、レイプは目撃者のいない犯罪なので、被害者の言うことと加害者の言うことのどちらが正しいか、という論議になってしまうからです。また、性行為があったことが証明できても、合意の上の行為だと主張されると反論が難しいのです。それでもレイプの加害者が次々と犯罪を繰り返して新たな被害者を出すことを防ぐためには、被害者が断固とした態度をとり、警察に知らせることが必要です。たとえ証拠不十分で不起訴になったとしても、相手にはっきりと、自分は泣き寝入りをするような被害者ではないのだ、ということをわからせるだけでも意味があります。複雑な警察や法律のしくみの中で、被害者がさらに辛い思いをしないよう、民間や自治体のサポート・システムがあります。シアトル近辺では、King County 24-hour sexual assault resources line: 1-888-99voice(1-888-998-6423)のホットラインがあり、適切なサービスを紹介してくれます。また、2006年4月4日時点の情報では、ベルビューにある、Eastside Domestic Violence Program の提供している24時間クライシスラインに毎週火曜日の午後 12-5時までの間にかけると、日本人のアドボケイトが電話に出てくれます。それ以外の時間でも電話通訳を通じて日本語で相談を受けることもできるはずです。
掲載:2006年4月