最近よく耳にする「ブロックチェーン」。でも、ビットコインの急騰・暴落やハッカーのアタックなど、耳に入るのは悪いニュースばかり。「テクノロジーとしての価値は、本当のところどうなのだろう?」と考える人は少なくないでしょう。
今回お話を伺ったのは、ブロックチェーン上にアプリなどのプロダクトを作りたいエンジニア向けのプラットフォームを開発している、ArcBlock 社 CEO のロバート・マオさん。既存の複数のブロックチェーンを繋ぐネットワークを作るという、業界内でも非常に画期的な試みに挑んでおり、「AWS(Amazon Web Services)のブロックチェーン版」とも呼ばれています。
ブロックチェーンの技術とは
デジタルの世界では、何をするにもログインが必要です。例えば Amazon.com で商品を買うだけでなく、Netflix で映画を見るにも、ワシントン州フェリーの予約をするにも、銀行の口座残高を確認するにも、まずは自分のアカウントにログインしなければなりません。
本人確認があらゆる場面で必要になるため、さまざまな業界にとってこの本人確認の精度を上げ、同時にコストを下げることが、緊急の課題となっています。
そこで注目されているのが、ブロックチェーンの分散型技術の活用です。これを活用できれば、Eコマースなどのビジネスシーンだけでなく、例えば企業の人事担当による採用者の経歴確認や、役所による魚釣りの許可証の管理や更新などの作業が、より効率良くできるようになるとされています。
このように、使い方や使える状況はさまざまなのですが、エンジニアでもなかなか理解しづらく使いにくいというのが定評のブロックチェーン技術。それをよりわかりやすくし、より簡単にブロックチェーンを使ったプログラミングができるプラットフォームを作っているのが、ArcBlock なのです。
連続起業家ロバート・マオさん インタビュー
起業するのはこれで4回目という連続起業家のロバートさん。中国・南京からアイルランドを経て、シアトルに移り住むきっかけとなったマイクロソフトでの開発研究の仕事を辞め、新しい事業を始めたきっかけと、今後の目標について伺いました。
– 起業して変えたいと思ったことは?
数多くあるブロックチェーンを繋げるネットワークを作る、ということです。これができれば、世界中のスタートアップや大企業、政府などが簡単に分散型のアプリケーションをブロックチェーン上に作ることができます。可能性は無限大です。
少しイメージするのがむずかしいかもしれませんが、これはまったく新しいインターネットを生み出すようなものだと考えています。まだ存在しない、まったく新しいものを作り出すのはチャレンジングであり、同時にとてもエキサイティングな作業です。
私は以前に3度、いずれも中国でスタートアップを始めた経験があります。1社目は、大学卒業直後に始めた、データベースの状況を把握し報告してくれるソフトウェアの会社。2社目はVoice-over IP技術に関わる事業。これは当時とても新しい技術だったのですが、私がその分野のビジネス化を初めて成功させたので、アメリカでもパイオニアとして認められるようになりました。3社目は、これはフェイスブックができるもっと前のことですが、中国で初めてソーシャル・ネットワークのプラットフォームを作りました。
つまり私は根っからのパイオニアなのです。新しい技術を使って、社会に新しい仕組みを作り出すことほど、楽しいことはありません。
– 起業したきっかけは?
3社目のスタートアップを無事に売却した後は、マイクロソフトの Future Social Experience(FUSE)Labs で Social Computing や Social Network に関するリサーチをしていました。上司がみなスタートアップ経験者だったので、とても楽しいチームでした。でも、自分が提案したプロジェクトが承認されなかった時、「辞めて自分で始めよう」と考えました。それが今回の起業のきっかけです。
起業当初は、knowledge share(ナリッジシェア)に関する製品を作る事業を始めようと思っていました。他人の知っていることは知りたいけれども、自分の知っていることは教えたくない、というナリッジシェアを促進する上での根本的な課題を解決するために、ブロックチェーン上のトークンの活用を考えていたのです。しかし、ブロックチェーンは新しい分野なので、既存の技術は速度が遅く不安定で、非常に使いにくいことがわかりました。
私はエンジニア出身なので、それならまずはありあわせの即興で別のプラットフォームを作ってみよう、と考えました。しかし、作ってみると、「ナリッジシェアのためではなく、ブロックチェーン上に作っているアプリを保存・管理するのに使いたい」というスタートアップが多くいることに気づいたのです。そこで、ブロックチェーン上にアプリを作るための基盤となるプラットフォームを製品にしよう、という方向性を固めました。
– 起業して良かったと思う時は?
正直に言うと、まだありません(苦笑)。起業は毎日が大変なことの連続です。こればかりは、どの街で、どの分野で、何度起業しても変わりません。
– 今までで最大のチャレンジは?
時間が足りない、ということが私にとっては常に一番のチャレンジです。
事業を起こして成功させるには、テクノロジーと、人材と、そしてファンディングの3つが必要です。テクノロジーに関しては、我々の作っているプラットフォームが正しい方向に向かっているかどうか知るために、常に業界の動向を把握していないといけません。人材についても、優秀な人材の確保に、チームビルディングなど、とても時間がかかります。ファンディングの確保も、事業を休みなく拡大させていくには欠かせませんが、すぐにできることではありません。起業家としてこれら3つを全部うまくやるには、時間がいくらあっても足りません。
– 会社で一番自慢のポイントは?
やはり業界初の試みをしている、という点です。似たようなプラットフォームを提供しているのは、世界中を見ても他に2社しかありません。
ブロックチェーンは比較的新しい分野ですので、業界内でどんなテクノロジーが主流になるかというのがまだ確定されていません。これまでは、ビットコインやイーサリアムなど、特定の主流なブロックチェーンが圧倒的に注目を集めていました。弊社の取り組んでいるような、複数のブロックチェーンを繋げるプラットフォームが今後の主流になるだろうという意見が専門家から聞かれ始めたのは、つい最近のことです。
以前からこの可能性に着目していた、ということが今は一番の自慢です。
– シアトルのスタートアップ・コミュニティの特徴は?
世界的に見ても、シアトルはスタートアップにとても適した街だと思います。マイクロソフトやアマゾンのおかげで、優秀な人材が大勢います。
ただ一点、他と違うのは、ベンチャー・キャピタルの数が圧倒的に少ないことです。シアトルの起業家やスタートアップ人材の層がどんどん拡大するそのスピードに、ベンチャー・キャピタルが追いついていない。だから、起業家はシリコンバレーや海外に出向いてファンドレイジングをしないといけないのです。シアトルには大企業も多ければ、資産家もたくさんいるわけだから、そのリソースをさらに活用して、もっと地元に根付いたベンチャー・キャピタルがどんどん増えていくことを切に願っています。
– よく行くコーヒーショップは?
私はプログラマーなので、コーヒーはとてもよく飲みます。でも外よりも、仕事をしながらオフィスで飲むことのほうが多いです。ほら(オフィスの一角にあるキッチンを指差して)、そこに良いコーヒーマシンが置いてあるでしょう。スタートアップにとって、あれはとても大切な初期投資です(笑)。
– 一緒に働きたい日本の会社・実業家・投資家は?
たくさんいます。日本企業のブロックチェーンへの関心は非常に高いと感じていますし、クラウド・コンピューティングも進んでいますので、パートナーシップを組めるところを積極的に探しています。
まずは弊社のプラットフォーム上でプロダクトを作りたいというスタートアップや、システム・インテグレーションに携わる企業などとパートナーシップを組みたいと思っています。これから日本でもイベントなどを積極的に開催して、弊社のプラットフォームをアピールしていきたいですね。
ArcBlock
CEO:ロバート・マオ
社員数:約20名(2019年5月現在)
本社:ベルビュー
創業年:2017年
公式サイト:www.arcblock.io
取材・文:渡辺佑子 写真:ArcBlock
このコラムの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。