専門用語だらけでわかりづらいフォームの数々。いつ許可が下りるのか見通しがつかない。面接でどんなことを聞かれるのかわからない。アメリカに長期で住んだことのある人なら、移民手続きの複雑さを実感したことがある人は多いのではないでしょうか。
シアトルのスタートアップを訪問するこの新しいシリーズで最初にお話を伺うのは、Boundless 社の CEO シャオ・ワンさん。アメリカの複雑な移民手続きに問題を感じ、Amazon Go での仕事を辞め、永住権と市民権の取得をサポートするオンラインサービス会社を2017年に起業しました。
Boundless の基本的なサービスの流れ
ウェブ上の診断ツールを使って簡単な質問に答えていくと、必要な書類の記入事項が自動的に埋まっていきます。また、他に必要な書類もオンライン上で一括管理することができ、わからないことはチャットやメール、電話などで担当者に質問することもできます。最後に Boundless が契約している弁護士に確認して承認を得たら、印刷されてフォルダにきれいにまとめられた書類一式が自宅に届き、あとは署名して移民局に郵送するだけ。
現在は結婚によるグリーンカード取得(750ドル)とアメリカ市民権取得(395ドル)の2種類のサポートサービスを提供しています。
今では毎月3万人以上が Boundless のサービスに申し込んでおり、これまで同社のサービスを使って申請手続きを提出した人の成功率はなんと100%。
シャオ・ワンさん インタビュー
シャオさんに起業するまでの思いやきっかけについて伺いました。
– 起業して変えたいと思ったことは?
テクノロジーとデータの力で、誰もが必要な情報が得られる時代になりました。それなのに、移民の手続きがわかりづらいことが理由で、新しい土地に根を下ろし、家族と一緒に暮らすことができない人たちがいる。つまり、家族と新しい生活を始める、というそれだけのことが、専門の弁護士を雇う経済的な余裕がある人たちだけの権利になってしまっているんです。情報があふれるこのテクノロジーの時代に、十分な情報がない、それだけで人生を左右されてしまうなんておかしい。起業してそれを変えたいと思いました。
– 起業したきっかけは?
(移民手続きの問題点を)知りすぎてしまった、というのがきっかけです。以前からどうして移民手続きはこんなに複雑なんだろうと疑問を持っていたので、ある時、友人や知人を通して、100人ほどに移民手続きについてインタビューをしました。
それでわかったのは、移民手続きというのは、多くの人の人生においてものすごく重要なことであるにも関わらず、手続きのプロセスはとても不透明だということでした。もっといいやり方がなくちゃならないだろうという思いに駆られて、Amazon Go の立ち上げのシニア・プロダクト・マネジャーとしての仕事を辞めました。その後、Pioneer Square Labs という地元のスタートアップコミュニティで起業の準備を始めたのですが、それを通じてオバマ政権で移民政策に携わっていたダグと、エンジニアのスルダーという2人に出会い、2017年2月に共同で Boundless を立ち上げたのです。
– 起業して良かったと思う時は?
新婚カップルのお客さんから、「今まで毎日家に帰ると書類の山、調べ物の長いリスト・・・というストレスフルな生活だったのが、Boundless のサービスを使ってからは毎日リラックスして2人の時間を過ごすことができるようになった」というレビューをもらったことがあります。そんなふうに、お客さんからフィードバックをいただく時が一番嬉しいですね。
起業にはいろいろ大変なこともありますが、そういう話を聞くと、起業して本当に良かったなと思います。
– 今までで最大のチャレンジは?
お客さんの人生を左右する仕事をしているというところが、この事業をする上で一番素晴らしいところでもあり、同時に一番難しいところでもあります。コミュニケーションで一つミスをすれば、お客さんに多大なストレスをもたらすことになるかもしれません。
以前、お客さんとのコミュニケーションが完璧にできておらず、とても重要な締切の日に間に合わないかもしれないという事態になったことがありました。結果的にはすべて間に合い、無事に手続きを済ませることができたのですが、このお客さんにとってはストレスフルな状況を作り出してしまいました。一つ一つの作業に非常に大きな責任が伴うのは、この事業をする上では常にチャレンジングなところです。
– 会社で一番自慢のポイントは?
成功率100%だというところです。移民手続きに関して、一番大切なのは結果です。そこにたどり着くまでのプロセスも大事ですが、最後にグリーンカードや市民権が取れなかったら何の意味もありません。なので結果第一(outcome centric)であることを大切にしています。
成功率100%を維持するために、サービスに申し込んでも早い段階でお断りするケースもあります。例えば犯罪歴があるなどの理由で手続きが通常以上に複雑になることがわかれば、その時点で費用を全額返済し、地元の弁護士さんをおすすめするなどしています。
– シアトルのスタートアップ・コミュニティの特徴は?
より大きな課題に、より頻繁に挑戦する、というところがシアトルのスタートアップの大きな特徴です。特にシリコン・バレーなどと比較すると、シアトルでは起業すること自体をゴールにしているのではなく、社会課題を解決することをゴールにしている起業家が多いと感じます。Textio や Rover、Convoy、Remitly などがその例です。
起業はそう簡単にできることじゃない。すごく大変です。それでも起業するのは、そうでもしないと解決できない大きな課題があるからです。テクノロジーには社会へのインパクトを拡大させる力があります。そのテクノロジーの力を社会課題の解決のために使うのは、この業界で働く我々の責任であり義務だと思っています。
– よく行くコーヒーショップは?
一番行くのはすぐ近くの 『Fulcrum Coffee』。週末のオフィスとしてよく使っています。家でも会社でもない Third Place として使うのに心地よいんですよね。以前オフィスがパイオニア・スクエアにあったんですが、そのときは 『Zeitgeist』 によく通いました。でもあそこは仕事をするというよりは、人に会うという感じでしたね。どちらにも地元のアートやクラフトがたくさんあるのが好きです。
Boundless
CEO:シャオ・ワン
社員数:約30名(2019年5月現在)
本社:シアトル(ベルタウン)
創業年:2017年
公式サイト:www.boundless.com