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「ビジネスを通じて日本への思いを形に」 日本進出準備中のスラロム・コンサルティングに行ってみた!

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「ジャパン・マーケット・プロジェクト」のチームメンバー
左から2番目がシアトル本社のジェネラル・マネジャーのカイル・クルーズ氏
中央が日本マーケット・リードの保坂隆太氏

画期的な戦略と最新テクノロジーの導入などを通して企業の成長を支援しているシアトル企業 Slalom Consulting(以下、スラローム・コンサルティング)が、年内に日本でサービスを開始すべく、準備を進めています。世界27拠点のオフィス・世界7拠点のビルド・センター(エンジニアリング・センター)で6,000人を超える社員が1,100社を超えるクライアントをサポートし、アメリカのメジャーなランキングで「働きやすい企業」の上位に選出される同社が日本市場に進出する理由は、「日本へのパッション(情熱)」。シアトル本社のジェネラル・マネジャーのカイル・クルーズ氏と、日本マーケット・リードの保坂隆太氏にお話を伺いました。

– 「ジャパン・マーケット・プロジェクト」との個人的なつながりを教えてください。

カイル・クルーズ(以下、カイル):幼いころから家族と6カ国に住み、その中で一番長く住んだのが日本でした。アメリカンスクールに通いながら日本で過ごした中学時代から高校時代に、私の人格が形成されたと思っていますし、日本の文化と特別なつながりを感じています。

それで、約1年半前に「日本企業の訪問団を受け入れ、私たちがAIを使って提供しているサービスを紹介する」という提案が社内から出てきた時、即座に賛成しました。家族と予定していた日本旅行での滞在期間を延長して日本企業を訪問し、ここにいる隆太とも出会い、私たちがこのシアトルで成し遂げてきたことを日本市場に持っていく大きなチャンスがあることを理解したのです。

– スラロームが日本との絆を強めることを決めた理由とは。

カイル:日本からシアトルに戻り、CEO のブラッド・ジャクソンと社長のジョン・トビンに出張について報告しながら、日本への進出を真剣に考えるべきだと伝えました。そして、4週間後、シアトル本社の約400人の前でプレゼンし、この大胆なステップをサポートしたい人はいるかと問いかけてみると、「日本が大好きだから、ぜひ参加したい」「日本に住んだことがある」「日本語を話せる」という社員が次々と手を挙げた。CEO もプロジェクトの意義を理解してくれ、日本進出に投資することを決めたのです。

その6ヵ月後の昨年半ば、この(保坂)隆太に説得されて(笑)、彼を「ジャパン・プロジェクト」のクライアント・サービス・リードとして採用し、そしてゆっくりとチーム作りをしていきました。

– どういう視点で今の日本にビジネス・チャンスを見出しているのでしょう。

カイル:「失われた10年」(Lost Decade)のことを言われているとしたら、確かに日本はあまり変わっていませんが、その間にも東京の街は常に変化し続けていて、驚かされました。しかし一方で、クラウド、アジャイル開発、ビジネス・アプリケーションにおける AI の導入などにおいて、私たちができることは非常に多いと感じます。

シアトルにいるスラロームはユニークな立ち位置にあります。シアトル企業によるサービスはクラウド業界で最大シェアを占めていますし(アマゾン、マイクロソフトなど)、シアトルは AI 技術における世界の中心でもあります。一方、日本ではそういう面でまだ十分なサービスが提供されていない。そこにチャンスを見出しています。

保坂隆太(以下、保坂):「失われた10年」は確かにあり、日本の人口は減少を続け、市場も縮小しています。その結果、日本企業では才能ある人材を確保しづらくなり、AI などの新しい技術を導入することが難しくなっている。変化したくても労働力が足りず、伝統的なやり方に固執せざるを得ない。でも、「だからこそ、外からの参入が必要」と言う日本企業もあり、そんな日本企業の世界進出をサポートしていきたいと考えています。

カイル:長期的なビジョンは、私たちがシアトルやその他の市場で展開しているコンサルティングとシステムインテグレーションサービス、そしてビルド・センター(エンジニアリング・センター)まで、すべてを日本市場にも提供することです。短期的には、日本市場は弊社の主要アライアンスパートナーとの協業によるサービス・ビジネス展開が適切なアプローチと考えています。つまり、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)やマイクロソフト、グーグルやタブロー、セールスフォースといった企業とパートナーを組み、そのソリューションの市場への提供から始めようとしています。

これらの企業は、米国市場で我々の強力なパートナーでもあり、スラロームの日本進出を望んで引っ張ってくれている。それがとてもいい助けであり、とても大きな利点です。

そして、「働きやすい企業」として認められているスラロームのユニークな組織と文化も伝えたい。アメリカのミレニアル世代がとてもフラットと評する企業文化は、日本の次世代も共鳴し、求めていることではないでしょうか。

保坂:フラットな企業文化についてですが、私はスラロームの「Personal Connection Meets Global Scale」というメッセージがとても気に入っています。もともとこのプロジェクトは、もとをたどるとカイルと私が知り合ったことから始まっていて、それが少しずつ大きな輪になって、スラローム社内でバーチャル・チームが作られ、今こうして私たちの戦略として正式に認められるようになりました。

始まった当初、私はパートタイムで週10時間の契約だったのですが、人のつながりと個人の持つパッションが、少しずつその輪を広げ、こうして会社全体としての取り組みにまで発展し、私もようやくフルタイムで採用になりました。それ自体がすでに「Personal Connection Meets Global Scale」を体現しているわけですが、実はこうした展開は社内で日常的に起きているうちの一つの例にすぎません。日々さまざまな部署の垣根を超えた社内コミュニティがあり、活発にアイデアが生まれて、プロジェクトになっていく。それが私たちの原動力になっています。

スラローム・コンサルティング

企業文化について、もう一つお伝えしたいことがあります。スラロームはダイバーシティを重視している企業としてとても評価が高く、それが働きやすい会社として高い評価を得る大きな理由にもなっていいます。一例を挙げると、女性比率の高さがあります。テック系企業はどこも女性比率があまり高くない傾向にありますが、スラロームは女性と男性比率がほぼ半々で、オフィスによっては女性のほうが多いところもあるくらいです。女性が活躍できるテック企業であるスラロームが日本にもオフィスを作れば、企業文化の観点からもきっと面白いことを起こせるのでは、という気持ちもありますね。ぜひ、何か新しい風を吹かせたいと思っています。

– 「ジャパン・プロジェクト」は今どういう段階にあるのですか。

カイル:現在行っている法律面でのさまざまな手続きが完了したら、実際のオフィスを設置する段階に入ります。2020年オリンピックまでにと考えていますが、現在はスケジュールのはるかに先を行っていますね。サービスを提供するのは、アメリカに7拠点あり、シアトルに最大のチームがあるビルド・センター(スラローム・ビルド)でさまざまなプラットフォーム上でのソフトウェア開発をサポートするエンジニアリングチームと、これから日本に置くチームが中心になります。エンジニアは全員が日本語を話す必要はなく、お客様とエンジニアの間に入るソリューション・オーナー、またはソリューション・アーキテクトと呼ばれるポジションに英語と日本語を話せる人を採用する計画です。

保坂:カイルの言うように、シアトル本社はユニークで、マイクロソフトやAWS、タブローなどプラットフォーマーと呼ばれる企業とのパートナーシップや技術スキルの経験が豊富なエンジニアが大勢いて、お客様にサービスを提供しています。シアトルのユニークなマーケット、エコシステムの中心に位置するスラロームのユニークさを活用し、日本企業がいち早く新しいテクノロジーやソリューションを導入できるようにしたいと考えています。

でも、これから文化的な違いによる課題にたくさん直面するかもしれません。例えば、日本企業とアメリカ企業の決定までのスピードの違い、働くことに対する意識の違いはよく知られていることですが、今、その違いを非常に感じています。私の場合、アメリカで7年働いてきた間に日本での商習慣やビジネスの進め方を忘れてしまっていたことを、今、日本と行き来するようになって改めて実感しています。

カイル:そもそも私たちの企業文化自体、多くのアメリカの企業の社内文化よりアグレッシブですからね。行動は早いし、決定も早い。それが日本でどう出るか。日米の違いは認識していますが、その違いにもポジティブとネガティブな面がある。自ら変わりたい、成長したいという企業と、パートナーを組みたいと考えています。

また、シリコンバレーの企業や多くの企業がシアトルに開発センターを作っているように、日本企業が米国市場に進出する拠点としてシアトルを選ぶなら、それはぜひサポートしていきたいと考えています。

保坂:日本のマイクロソフトで働いていた当時、Windows PCを製造していたメーカーのサポートチームを担当していたのですが、その当時はいくつかの日本メーカーがグローバルシェアのトップ5に入るほどマーケットプレゼンスがありました。あれから15年以上たち、今は状況が大きく変わりました。多くの日本企業にとって市場が日本のみになりつつあり、グローバルマーケットで日本メーカーを見ることが本当に少なくなりました。

私個人としては、このプロジェクトを通して、日本企業がまたグローバルマーケットに返り咲くサポートができれば、これ以上うれしいことはない。スラロームは米国市場で大きなプレゼンスがありますので、グローバルマーケットに出たい企業を(グローバルで最大規模である)米国市場に進出するお手伝いをすることもできます。そして、日本のお客様と一緒にスラロームもさらに多くの国、地域でビジネスを展開する。日本のお客様と一緒に成長することができれば最高ですね。

– 日本にひきつけられる理由は?

カイル:まったく正直に言うと、今この時点で私が日本にひきつけられているのは、私たちのパッションからはじまったプロジェクトであることが最大の理由ですね。私はビジネスを生み出し、新しい市場に参入しようとする企業と人を支援すること、そして私たちの会社、スラロームに対して、パッションがあるんです。モダンなコンサルティング会社であるスラロームを、大好きな日本に持っていきたい。私は、日本進出を手伝ってくれる人がいるんだと、CEOや社長に直談判できるユニークなポジションにいるからこそ、そういうパッションを持っている人を応援したい。

最近の経済状況からすれば、一般的にはアジア市場の新規参入拠点としては、シンガポール、香港、上海あたりですよね。我々は、私たち自身が一番パッションを持ち、つながりを一番感じているのが日本なので、日本に決めました。

マウント・レーニアとシアトルが写っている大きな写真の横に、
富士山と東京が写った小さな写真。「この写真の中に私たちも入りますよ」と、カイル。

スラロームの CEO は、とてもユニークなリーダーで、彼がリーダーであることはとても光栄なことです。「日本進出に真剣じゃないでしょう?」と彼を何度かからかっていたら、ある日、ちょっとからかいすぎたのか、次の日に彼から「日本に進出する。日本市場において何らかの経験がある人、情熱がある人は、カイルに連絡するように」と全社員にメールを送信してくれたんですよ。おかげで、その日のうちにスラローム社員50人が私にメールを送ってきて、またたくまにメールがたまってしまいました。日本は進出が簡単な市場とは思っていませんし、長期戦になるかもしれませんが、賢く投資し、組織としてすばやく動き、できるだけ速く成功する必要があります。この勢いを逃さないようにしたいですね。

シアトルは、アメリカの他の都市よりも日本とのコネクションが強いと思います。日本文化に対する敬意もありますし、個人的にはそれが20年前よりも強くなってきているように感じます。それはシアトルが国際都市として成長しているからかもしれませんし、私が日本の市場について話し続けているので、日本に関係する人が以前よりもっと目の前に現れがちということなのかもしれませんが(笑)。

– 違いを認めつつ、より良いやり方をクリエイティブに生み出すことが成功の鍵だと。

カイル:現在アプローチしている多数の日本企業が、スラロームの進出をとてもポジティブに受け止めてくれていることに驚いています。興味を持ってくれ、支援を申し出てくれる企業もあります。アメリカでの勤務経験や在住経験がある日本企業のエグゼクティブは、新しい考え方や変化をもっと積極的に求めていますね。

保坂:日本市場は確実に変化していますが、プロセスや決定の仕方を変えるのは非常に難しい。私たちの課題は、スラロームのビジョンやビジネスの進め方がアメリカでもユニークであることを伝えながら、日本の企業文化、働き方の文化も含め、新しいテクノロジーを使い、新しい文化を創っていきましょう、変わりたいなら一緒にやってみましょうというメッセージで、仲間を増やしていきたいですね。

カイル:日本進出の成功は、そんなふうに違いを認めつつ、より良いやり方をクリエイティブに生み出すことができるかにかかっていると思っています。

スラローム・コンサルティング 取材に応じてくれた方々

カイル・クルーズ:シアトル本社ジェネラル・マネジャー。幼少期を日本を含む6カ国で暮らし、ワシントン大学で経営学と工学の学士号を取得。アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)とデロイト・コンサルティングを経て、2007年にスラローム入社。2016年から現職。

保坂隆太:東京生まれ。法政大学大学院システム工学研究科卒。日本市場におけるクライアント・サービス・リード。日本IBM、ロータス、デル、マイクロソフト株式会社、マイクロソフトコーポレーションを経て、2018年から現職。

編集後記:「日本が大好きなチームなんです。ぜひ取材してください」との連絡を受け、シアトル発祥の地パイオニア・スクエアにあるスラローム・コンサルティング本社を訪ねたのは3月中旬のこと。シアトルのランドマークに指定されているエクスチェンジ・ビルディングは1930年完成という歴史を感じさせる外観ですが、スラローム本社のフロアはモダンにデザインされ、社員たちが働く自然光がたくさん入るオープンなオフィスからはその場でさまざまなビジネスが動いている活気が感じられます。ジェネラル・マネジャーのカイルをはじめ、「ジャパン・マーケット・プロジェクト」のメンバーは現在40代~50代で、勢いのあった時代の日本を見てきた世代。今の日本から経済や働き方において明るいニュースが世界に伝わることはなかなかありませんが、メンバーたちはアプローチしている日本企業とのやり取りを通じて手ごたえを感じており、働き方においては、「大きな転換期を迎えている日本にアメリカのやり方をそのまま持ち込むのではなく、双方の良いところを組み合わせた新しい企業文化を創りたい」と語ってくれました。日本オフィス設立のニュースを楽しみに待ちたいと思います。

取材・文:編集部

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