「自分のやりたい仕事をしたい」「将来は海外で働きたい」と思っている留学生は多いのではないでしょうか。中には、自分のやりたい仕事があっても、自分の得意なスキルとは直接関係がないから、諦めるしかないかな、と思っている方もいるかもしれません。
今回はそんな方々必読のインタビューです。為石万里子(ためいし・まりこ)さんは、長年自分のやりたいことの思いを抱き続け、ついにアメリカでその夢を実現し、今なお追い続けている方。たくさんの経験をされた為石さんの人生には、自分のやりたいことをやり抜くための、たくさんのヒントがありました。日本人留学生が運営する SIJP 学生部によるレポートです!
【主なトピック】
「自分のやりたいことを仕事にしたい」と誰もが考えているかと思います。でも、自分が興味のあることを見つけ出しても、人生は思うようにいかないことがたくさんある、と感じることもあるかと思います。「もし自分が興味のない仕事に就いたら」「入社したものの、自分のやりたいことと大きく違ったら」といったところまで踏み込んで、長い歴史があり、シアトル市内近郊に展開しているスウィディッシュ病院の Swedish Cancer Institute で Personalized Cancer Care Program Manager(個別化医療マネジャー)として働くまでに就職活動を数多く経験された為石万里子さんにお話をお伺いしました!
- 面接では、企業調査をした上で、どのように自分が貢献できるかを謙虚に、情熱をもって伝えよう
- インターンシップやボランティア活動では、先を読み、チームプレーヤーとして貢献しよう
- 自分のやりたいことを人に伝えると同時に、スキルを上げよう
- 自分から学ぶチャンスを常に探し、そして、挑戦しよう
為石万里子さんってどんな人?
大学卒業後、外資企業に転職したことをきっかけに、30代半ばで一念発起し、アメリカの大学院に入学。インターンシップを最大限に活用しながら病院に就職し、新規事業の立ち上げに参加。
経歴:
慶應義塾大学 SFC(湘南藤沢キャンパス)在学中に母親をがんで亡くしたことで、「がん医療に携わりたい」との思いが強くなる。大学卒業後はセコムに入社するも、希望した在宅医療の配属にはならず、1年余りで体調を崩し退社。音楽療法を学び、ピアノ奏者として活動し、派遣社員としても働く間に、病院の経営を変えることが患者とその家族の人生の質の向上につながると実感する。
30代を目前に就職活動を再開し、IBM ソフトウェア事業部にデータベース・エンジニアとして採用された後もヘルスケアへの興味を示し続け、IBM とプライスウォーターハウスクーパースのコンサルティング部門の経営統合に伴い、ヘルスケア・コンサルティング部門の立ち上げに参加した。
欧米のヘルスケア業界のリーダーと関わる中で、MBA のヘルスケア版 Master of Health Administration という修士課程がアメリカに存在することを知り、30代半ばでコーネル大学大学院に入学。病院での夏季インターンシップがきっかけとなり、シアトルの Virginia Mason Hospital & Medical Center や Swedish Cancer Institute などでインターンシップを重ね、2007年に同 Institute 入社。2013年から現職。
企業調査をし、面接では「どのように自分が貢献できるか」を謙虚に、情熱をもって伝えよう
-今までの就職活動を振り返って、どのような履歴書、カバーレターが効果がありましたか?
自分のセールスポイントを書くだけでなく、その企業にどう役立つことができるかを書き、自分が雇う側だったらどのような人材が欲しいかを考えました。そのため、企業研究は徹底的に行いました。ウェブサイトからその企業にまつわるニュースや歴史まで目を通し、新聞、日経ビジネスなどのビジネス誌も読むようにしていました。企業のことを理解し、自分がやってきたことを「~だから自分はこうして働きたいし、貢献したい」というストーリーを自分で作りました。
そして、問題を機会に変えることを常に意識していました。例えば、「ここの企業はここに問題を抱えている、ここに将来の方向性を見出している」といったことを企業研究を通して見つけたら、それらを会社の強みとつなぎ合わせて、「だから私はこのように役立てると思うのです」というストーリーを大事にしました。
私の場合、可能性が低いと思っても、たくさんの企業に履歴書を送りました。「トライ&エラー」で、いくつか出してみて、反応を見つつ、修正しました。6ヶ月くらいの期間で、100通ほど出したと思います。カバーレターは最初に見るものですので、人事担当者にやみくもに履歴書を送っているのではなく、その企業に本当に興味と情熱を持って応募しているということを伝えられるよう心がけました。その中で面接のオファーをいただいたのは、10社ほどです。面接は業界のトレンドを知り、本命に備える機会でもあると考え、可能性が低くても応募しました。面接のオファーをいただいた場合は、興味の程度に関わらず、きちんと準備をするよう心がけました。面接を通じてその会社に興味を持つようになることもありましたね。
-面接ではどのような点に気をつけましたか?
いかに「この人と一緒に仕事をしたら面白いかも」と思ってもらうことができるかという点に力を入れました。そうすることで、人事担当者に「この人は経験がないけれど、ポテンシャルはある」と思ってもらうことができ、ポテンシャルの採用として内定を得られやすくなります。私の場合、日本では派遣社員として働いていましたが、正社員としては長いブランクがあったので、自分のそれまでに行ってきたことを通じて自分のポテンシャルをいかに伝えるかがとても重要でした。
そして、面接には、事前にできる限りの準備をして臨んでいました。「用意した上での、行き当たりばったり」を目指しました。「ここまで準備をしたのだから、大丈夫」と安心できます。面接では、面接官からさまざまなタイプの質問をされ、自分が何をしたいのか真剣に考えるいい訓練になります。また、これまでの経験や思いをどのように伝えればいいのかを学ぶ機会にもなります。それを繰り返すことによって、新しい発見があり、次の面接に活かすことができます。
アメリカでは面接官やお世話になった方に、面接の後に「サンキューレター」というお礼状を送ります。これはコミュニケーションツールとして非常に重要ですので、将来アメリカで働くことを視野に入れている方は覚えておいてください。
インターンシップやボランティア活動では、先を読み、チームプレーヤーとして貢献しよう
-インターンシップやボランティア活動を通して内定のオファーを何度か受けている為石さんから見た、インターンシップのアプローチ方法を教えてください。
充実したインターンシップをするには、重要なポイントが2つあります。
まず1つ目は、チームのために働くことです。みんなが嫌がることも、「私がやります」と積極的に引き受けました。
2つ目は、依頼されたことを行うだけではなく、さらに貢献できることがないかと考え、上のレベルの知識やスキルが必要だと感じたら、自分で時間外に勉強したり、スキルを向上するようにしました。
これらを意識して行動に移すことで、チームプレーヤーとして、頼まれたことをただ行うのではなく、自ら学び、考え、成果を出し、会社に貢献できる人材であると思われる可能性があります。
時には、せっかく準備したことが、その時に上手く活かせない場合もあるかと思いますが、それは決して無駄なことではなく、後に役に立つときが来ると私は考えています。学ぶ意欲を示すことも大事で、自分がもっと学びたいと思ったら、「学ぶ機会をください」とタイミングや状況を見て上司にお願いしてみるのも一つの手だと思います。常に先を考えて行動し、次に自分はもっと何ができるかを意識してみてください。そうすることによって、インターンシップやボランティア活動が充実し、十分な収穫を得られると思います。
自分のやりたいことを人に伝えると同時に、スキルを上げよう
-為石さんの大学での専門や、国内での仕事のキャリアからしても、「ヘルスケア」とは縁遠い気がします。自分のやりたいことと、専門スキルを近づけるためのヒントはありますか?
まずは、自分のやりたい仕事ができるとなった時に、今現在、実際にそれをこなせるだけのスキルがあるかどうかを考えてみましょう。もしないのであれば、自分でそのスキルを磨きましょう。会社内で機会があるのならどんどんチャレンジするべきですし、自費で学校に通うことも選択肢の一つだと思います。私は「教育は投資」であり、将来自分に返ってくると考えています。今やりたいことができなくても、いざやらせてもらえるようになった時に、どういうスキルが必要かを考えて行動に移すことで、一歩やりたいことに近づけます。
実際に私がIBMで働いていた時はデータベース事業部だったのですが、やはり「ヘルスケア」に携わりたいという思いが強くあったので、病院などでボランティア活動をし、現場を理解し勉強できる機会があればと、会社内外の時間を問わず機会を探しました。実際に現場へ行きますと、そこでまた新しい発見がありますし、視野も広がります。そこで出会った人と新しいネットワークが生まれるかもしれません。「これがやりたい」と人に伝えた時、こうした行動の積み重ねが裏付けとなります。
「ヘルスケアに携わりたい」と言い続けていたら、IBMのプライスウォーターハウスクーパース コンサルティング部門の経営統合を機に、ヘルスケア・コンサルティング部門が新規に立ち上げられ、立ち上げメンバーとして、社内で転職することができました。アメリカでインターンシップをしていた際も、「がん医療」に携わりたい、と周りに言っていたら、そこからSwedish Cancer Instituteでのインターンシップ、さらに内定のオファーにつながりました。
このように、待っているのではなく、自分から行動していくことによって、チャンスをつかめる可能性が格段に広がります。
-現在、世界中で企業買収などが頻繁に起こっており、いきなり新しい部門が立ち上げられることがよくあると伺ったことがあります。チャンスはいつ来るかわかりませんね。
自分から学ぶチャンスをつかみに行き、とにかく挑戦しよう
-今の学生に送るアドバイスはありますか?
自分がやりたいこと、興味のあることに挑戦してみましょう。失敗は経験ですので、失敗を恐れずに学生のうちからどんどん挑戦してみましょう。しなかった時の後悔の方が後に残ります。時間は戻りませんので、どうせ後悔するなら、挑戦して後悔した方がいいと思っています。
そして、もし自分が望む仕事に就けなくても、望む仕事に行き着くまでさまざま方法があると思いますし、実際にやってみたら思い描いていたことと違うということもありますが、逆に、思ってもいなかった可能性やチャンスも訪れます。ですので、常にアンテナを張って、情報収集をし、視野を広くし、実行に移すことで、将来の選択肢が広がってくる、もしくは自分の望む仕事へ近づいていくのではないでしょうか?
さらに、興味があってもなくても、機会があったら取り組んでみましょう。私の場合、思い返すと過去に自分がやってきたことが今に全部つながっています。ピアノ奏者をしていた時代に培われた臨機応変力や集中力なども今に活きています。一見、会社のキャリアと関係がないかもしれませんが、今振り返ってみると、無駄な経験は一つもなく、全て生きていると感じています。ですので、学生のうちにさまざまなことに体験してみて、それをつなげていくと、自然と自分だけの道となっていくのかもしれません。
取材を終えて:
30代半ばで渡米し、大学院に入学、新入社員になり、長年思い続けてきた仕事に携わっている為石さんにお会いし、本当に自分のやりたいことを実現するんだ、という強い気持ちや、自分に正直であることの大切さを教えていただきました。
面接で収穫を得るための企業研究などの事前準備、インターンシップやボランティア活動を充実させるための勉強意欲や積極性、そして、自分のやりたいことを人に伝えると同時に自分自身でその専門スキルを磨くことが、自分のやりたいことに一歩近づくヒントとなっています。
挑戦し続けていくことや、自分の思いを人に伝え続けていくことが自分の夢の実現に結びついていくこと、そして、自分の得意なスキルとやりたいことが違っても、全ての経験は全く無駄にならず、自分の夢の実現につながっていく可能性が十分にあることも知りました。
今後、世界はますますグローバル化やイノベーションが進み、さまざまな産業や分野同士の融合が始まり、新しい仕事が誕生していくでしょう。そんな中で、これから自分のスキルややりたいことが突然結びつくことが当然考えられます。または、自分のやりたいことが変わっていくかもしれません。とにかく、全てのことは点と線で繋がるんだ、という気持ちで行動していきたいと思いました。
取材・執筆:田部井 愛理(たべい あいり):
1994年生まれ。成城大学文芸学部英文学科に2年間通学した後、2年間休学し、シアトルの Highline College に留学、Hospitality and Tourism を専攻。将来はトラベルライターを志す。
掲載:2016年11月 撮影・録音:大崎雄平